――10月初旬のノーベル賞の発表に先立ち、9月下旬にはドイツのデュッセルドルフで、欧州大陸の自動車産業への浸透を目指す旭化成が現地の関係者向けに開いたビジネスフォーラムで基調講演をしたそうですね。自動車の先進地域であるドイツでは、どのようなことを話したのですか。
25年以降のシナリオとして、主に「AIEV」(全自動運転EV)の世界に変わるという話をしました。AIEVとは、私が勝手に考えた造語で、Artificial Intelligence Electric Vehicle の略です。要するに、AI(人工知能)の技術で実現する「無人自動運転機能」を有した電気自動車のことを指します。
ドイツも含めて、欧州は自動車産業の最先端を走っていますが、実は悩んでもいます。例えば、これから自動車産業はどのようにEVと向き合っていくか、さらに環境規制などをどう設計していくのか、などです。欧州には、もともと電池産業がなく、技術やノウハウの蓄積がないという事情もあります。
私が最も申し上げたかったのは、「バズワードは実現する」ということです。バズワードとは、“もっともらしく聞こえるけれど、具体的な意味や定義が曖昧なままの流行語”のようなものです。現在、世界の自動車産業で使われている「CASE」は、Connected(常時接続化)、Autonomous(自動運転化)、Shared(シェア化)、Electric(電動化)の頭文字を取ったものです。また、「MaaS」は、Mobility as a Serviceの略で、自分で自動車を所有せず、使いたいときにだけお金を払って利用するサービスを指します。いわゆるシェアリングです。
こうしたバズワードは、実のところ分かったようで分からない(笑)。
でも、その方向にあることは、誰でもなんとなく理解できる。ただし、その際に、今、目の前に存在するEVだけ、一定の成果を上げたリチウムイオン2次電池だけで発想するのではなく、さまざまなアプローチを考える。自らの立ち位置を超えた大きな枠の中で考えないと、議論が拡散してしまう。すでにあるものではなく、あらゆる要素技術を寄せ集めて、新しいモビリティ社会を創造していく。そうでないと、いつまでたっても正しい未来の姿が見えてこない。
多くの研究者を悩ませる
川、谷、海という“関門”
――「バズワードは実現する」の真意について、ご自身の経験に照らしてもう少し詳しくお願いします。