かつては安定企業の代表格だったメガバンクも、
いまや数千・万人単位と大量の人員削減を余儀なくされている。
地銀の凋落ぶりは、もはや目を覆わんばかりだ。
なんだかんだと金融行政に守られ、
誰がやっても儲かるような護送船団方式のなかで安穏と過ごしてきた銀行に
市場競争へ立ち向かうまともな力量はない。
いまやAIや仮想通貨といったまったく異質の金融技術が、
銀行業務の独占に容赦なく襲いかかってきているのだ。
どんなビジネスアイデアも、本来は経営者の個人保証や担保がなくても、
アイデアそのものがお金を生み出しそうかどうか、「事業性」を評価して融資されるべき。
その事業性を審査する能力こそ銀行のコアスキルであるべきなのだが、それがない。
いまごろになって事業性評価に基づく融資の拡大を標榜する銀行も増えつつあるが、
これまで担保主義で融資してきたのだから、必要な審査能力は備わっていないのだ。
こぞって消費者金融を手掛けるも、焼け石に水。もはや八方塞がり。
不動産などの担保を確保して融資するという質屋のような銀行業務は、もういらない。
『もう銀行はいらない』を上梓した経済評論家・上念司氏が、
確かな見識と舌鋒鋭い指摘で、銀行業界を“筆刀両断”する。
1969年東京都生まれ。1993年中央大学法学部法律学科卒業。在学中は日本最古の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年より、経済評論家・勝間和代と「株式会社監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任。現在は代表取締役。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一名誉教授に師事し、薫陶を受ける。リフレ派の論客として経済政策、外交防衛政策など著書多数で、『もう銀行はいらない』(ダイヤモンド社)、『経済で読み解く日本史 文庫版五巻セット』(飛鳥新社)、『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済』(講談社+α新書)などがある。テレビ、ラジオなどでも活躍中。
【前回】からの続き
ジャパンベンチャーリサーチ社の調べによれば、2017年の日本におけるベンチャー企業の資金調達額は過去最高の総額2717億円でした。
一見、凄そうな金額に見えるかもしれませんが、話にならないくらいの少なさです。
同年の全世界のベンチャー投資額は18兆円ですから、これに比べたらゴミのような金額なのです。
北米の投資額は、世界全体の約半分の8・4兆円にも達します。
しかも、日本国内のベンチャー投資は、アジアの中でも地盤沈下気味になっています。
次の記事をお読みください。
―――――
世界のベンチャー企業への投資額が2017年に前年比49%増の1644億ドル(約18兆円)となり、2年ぶりに過去最高を更新した。北米地域が17%の伸びにとどまる一方で、中国やインドなどアジア地域が2.2倍に急増。北米に偏っていたベンチャー投資がアジアへと広がっていることが鮮明になった。調達額が数十億ドルにのぼる大型案件も目立った。(中略)アジアのベンチャー投資額は17年に初めて700億ドルを上回り、北米の745億ドルに迫った。16年の段階では北米とアジアで2倍近い差があったが、シリコンバレーのベンチャー投資が一服するなかでアジア企業への投資の伸びが際立った。
[出典:ベンチャー投資、アジアが北米に迫る、17年は2.2倍に急進 日本経済新聞(2018年1月16日)]
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25749440W8A110C1FF2000/
―――――
アジア全体のベンチャー投資は約7.9兆円。
日本のベンチャー投資は0.27兆円。
ざっくり言うと30分の1しかありません。
これだけ低金利が続いているにもかかわらず、銀行は何をやっているのでしょうか?
やはり事業性の審査能力は皆無で、担保ばかり気にして質屋みたいになっているとしか思えません。
そういえば、パナソニック(松下電器産業)創業者の松下幸之助氏も創業当初、何度も資金繰りに困り、そのたびにお嫁さんの親戚にお金を借りに行ったという逸話が残っています。
それから1世紀経ったいまですら、状況はあまり変わっていません。
結局、ベンチャー企業に残された資金調達の手段は、友達や親戚からお金を借りるか、せいぜいネット上で不特定多数の人から資金を募る「クラウドファンディング」ぐらいしかない状況です。
仮に融資するお金が銀行に足りないのなら、仕方ありません。
しかし、実際には「黒田バズーカ」によって日銀が史上空前の金融緩和を行っており、銀行には資金がジャブジャブあふれている状態です。
そのせいで金利がとても低くなっているにもかかわらず、担保価値ばかり計算して事業性を見ない(見る能力がない)。これは、もう病気と言っていいレベルだと思えてなりません。
しかし、それでは済まされないのです。
なぜなら、銀行は企業に資金を供給することを通じて、日本経済全体において重大な役割を果たしているからです。
本来、この役割をしっかりと果たすために日銀や金融庁が指導しているはずなのですが、実際にはそうでもないようです。
【次回へ続く】