ハイブリッド車級の
“次世代の飯の種”がない

 端的に言えば、今のトヨタには97年に世界初の量産ハイブリッド車(HV)「プリウス」を世に送り出した時に匹敵するような“次世代の飯の種”がない。

 かつてのトヨタは、自動車のテクノロジーに関して言えば、「未来を見通せない」という経験をしたことはなかった。厳密に言えば、未来を多少見誤っても軌道修正ができた。表面には出ていない技術であっても、水面下では有望技術を全て自前で開発しているので、情勢が変われば水面下から地上(表面)へ技術を昇格させて、時流にキャッチアップすればよかったのだ。

 例えば、前述のプリウスに代表されるHVなどのエコカー開発は、自前主義の典型例だろう。2000年代以降、トヨタは表向きでは全身全霊でHVに注力し、電気自動車(EV) に対するHVの優位性をアピールしながらも、いつ本格的なEV時代が到来しても良いようにしっかりとEV開発も続けていた。もちろん、究極のエコカーと位置付ける燃料電池車(FCV)も然りである。

 トヨタの自前主義を支えてきたのは、日本一の規模を誇る潤沢な研究開発費だ。近年はCASE領域への投資拡大で研究開発費は1兆円を優に超えており、激増している。

 今後はさらに、研究開発費に占めるCASE領域の構成比を、19年3月期の4割弱から「近いうちに5割程度まで高める」(小林耕士・トヨタ副社長)方針。研究開発投資は増える一方で、いよいよトヨタの自前主義にも限界が生じている。限界は、電動車(HVやEVなど)の基幹デバイスである電池調達戦略の“迷い”でも見てとれる。EVの原価に占める電池の構成比は4〜5割と高い。製造業のコスト削減の基本である「原価低減」をお家芸としてきたトヨタ。かつてのトヨタならば原価率の高い電池は、内製化と親密サプライヤーの「二つのソース」で調達戦略を組み立てたはずだ。

 だが、トヨタが選択したのはプライムアースEVエナジー(トヨタが8割出資)を通じて「自前」、「親密サプライヤー(パナソニックとの合弁など)」、「外様サプライヤー(中国メーカー)」から調達する「全方位調達」だった。

 どうもトヨタ社内の中で、量産EVでどうやってもうけるのか、何を差別化のポイントにするのかについて迷いがあるようなのだ。電池事業が厄介なのは、原価に占める構成比が高い「基幹デバイス」である割には、電池の差別化が車の差別化には必ずしもつながらないことだ。その上、設備投資も研究開発投資も巨費に上る装置産業なので、外販前提の量産ビジネスを展開しなければならず、経営の機動性は低下してしまう。

 すでに、ホンダや日産自動車はもはや電池は「競争領域」ではないとして、電池の自前開発はやらない方針。一方のトヨタは、「ある程度は自前開発をしないとサプライヤーと価格交渉ができないし、電池の技術革新からも遅れてしまう」(トヨタ社員)という懸念が根強い。

 そんな迷えるトヨタが昨年導き出した、生産能力世界一の中国電池メーカーのCATLと組むという答えは、同社の調達戦略の歴史的転換点だと言ってもいい。

 中国市場向けがメインであるとはいえ、基幹デバイスを、外様の、しかも中国のサプライヤーに任せるのはトヨタ史上初めてのことだからだ。ちょうど1年前に、中国政府が「内燃機関車禁止、電動化加速」の方針へ転換するとの情報が伝わるや否や、トヨタはそれまで消極的だったCATLとの協業方針を撤回し、一気に包括的パートナーシップの締結へと動いた。

 図らずも、CASE領域の電動化(E)は、自前主義では成り立たないことを証明した格好だ。トヨタの電池調達戦略の迷いは、トヨタがEVで何を「競争領域(=差別化要素)」とするのか、選別することの難しさを表しているとも言える。