富士ゼロックスの玉井光一社長は5日の会見で、契約について、「現時点で継続するものと考えている」と語る一方、「21年3月以降については、今は何も決まっていない」とも話した。

 契約更新がなければ富士ゼロックスは「ゼロックス」商標を使えず、直販エリアのすみ分けもなくなる。元身内間の仁義なき戦いの始まりだ。米ゼロックスが成長市場のアジアに進出してくる脅威に比べ、富士ゼロックス(契約更新がなければこの社名も定かではない)が縮小市場の欧米に進出するメリットは小さい。

 商標だけならば評価は分かれる。富士ゼロックスはB2Bビジネスなうえ既に半世紀以上事業継続しており、「『ゼロックス』である必要性はもはやない」(前出の業界関係者)と見る向きがある一方、「日本以外では富士ゼロックスの富士は『富士通』と誤認しているケースがあり、『ゼロックス』でもっている」(別の業界関係者)と、『ゼロックス』がなくなった際のブランド力低下を懸念する声もある。

 ただし、米ゼロックス買収断念と引き換えに、OEM供給とはいえ富士ゼロックスは欧米市場へ自社で踏み込める権利を手に入れた。このアクセス権は米ゼロックスにとっては半世紀以上続いた両社の関係を清算する「手切れ金」、富士ゼロックスにとっては1年余り先の更新がない場合を想定して、今から生き残る道を「地固めする権利」を得たように映る。
 
 銀塩フイルム消滅の危機を多角化で乗り越えるなど、“対応力”に定評がある富士フイルムHD。今回の対応も吉と出るのだろうか。