「きくち体操」は、脳と体をつなげる体操

ですが、教室でカミナリを100個くらい落としても、ボーッとしている人もいます。「おしりを寄せて!」と声を枯らして言っても、左右のおしりがでれーっと広がったままぴくっとも動かない。本人は「こうですか?」と必死で顔をしかめているので「顔じゃないのよ! おしりよ!」なんて言ってしまうのですが、それだけ、自分の脳と体がつながっていないのです。
脳と体がしっかりとつながって、思い通りに動かせるからこそ、最後まで自分らしく生きられます。
最近は、体が元気でも認知症で隣町まで徘徊してしまったり、反対に、頭ははっきりしていても寝たきりの人もいます。たとえ寝たきりでも、ちょっとおしりを上げることができるだけで、介護してくださる方がどれほど楽になるか。100倍違いますよ。それができるのも、脳と筋肉がつながっていてこそです。

いかに体のすみずみまで脳とつなげて、この体丸ごと全部を動かして生かしていくか。それを自分で自覚してやってもらうのが、「きくち体操」です。体はあなたの命そのものなんですから。
「きくち体操」では、体の部分部分に意識を向けて動かしていきます。
人差し指と小指とでは、動かしたときに感じが違う。人差し指を動かしたときは、脳の中で人差し指を司る場所の電気がパッとつき、小指を動かしたときは小指の場所の脳の電気がパッとつきます。そうやって、「今、ここをこう動かしている?」と確かめながら、脳と体をしっかりとつなげていくのです。
ただなんとなく運動をしたり、歩いたりするのではありません。何をするにも、動かしているところを意識して動かす。そうやって、全身がいつもはっきりするように、感覚を磨き抜いているのです。こういうことをしていれば、年をとって包丁が持てないわ、とか、細かい薬の仕分けができないわ、なんていうことはなくなると思うのです。
ですから、「体操」と言っても、私たちの本当の目的は、「脳」を動かすこと。足の指を開いたり、伸ばす動きをするときは、「足指の付け根のところから指を使って前に進むんだ、だからここの感覚がはっきりしていないといけないんだ」ということを頭で考えながら、指を1本1本動かす。1本1本動かしていくことで、ちゃんと筋肉が育ってきます。筋肉が育てば血行がよくなり、血液が末端までいきわたって、弱くなったところに力をつけてくれます。その力の刺激で、骨も丈夫になっていきます。
ただ単に「歩かなくては」とか「足腰を丈夫にしよう」と思っているだけでは、自分では動かしているつもりでも、いつも同じところだけを使っていたり、実際にはあんまり動いていなかったりします。
体の感覚をひとつひとつ研ぎ澄ませていけば、どこか調子が悪くなっても、自分ですぐ気がつくことができます。体を意識して動かしていくことで、今より少しでもよくしていくことができるのです。

人生100年時代。長生きが普通になった今の、新しい生き方とは?
菊池和子(きくち・かずこ)
1934年生まれ。日本女子体育短期大学卒業。体育教師を経て「きくち体操」を創始。川崎本部のほか、東京、神奈川などの教室、カルチャースクールなどで指導を行う。心と体、脳とのつながりに着目した“いのちの体操”は、性別・年齢を問わず多くの支持を得ており、全国で講演多数。著書に、『指の魔法 奇跡のきくち体操』(集英社インターナショナル)、『はじめての「きくち体操」』(講談社+α新書)、『あぶら身がすっきり取れるきくち体操』(KADOKAWA)、『寝たままできる! 体がよみがえる!! きくち体操』(宝島社)など多数。