「スマートフォン上であらゆる暮らしを便利にする“スーパーアプリ”を目指して、進化を続けていく」

 11月5日、ソフトバンクの2020年3月期第2四半期の決算会見。宮内謙CEO(最高経営責任者)はこう宣言した。宮内CEOが期待を寄せるのは、ソフトバンクグループが全力で普及を目論むキャッシュレス決済サービス「PayPay(ペイペイ)」である。昨年10月のサービス開始から13カ月で利用者は1900万人を突破した。

 ペイペイが目指すのは、単なる決済アプリに留まらず、ショッピングはもとより、ホテルやタクシーの予約から公共料金の支払い、さらには保険や投資まで、あらゆるサービスをワンストップで手掛けることができる存在だ。この構想の一環としてショッピング分野を強化するため、ZHDはアパレルECサイト大手ZOZOの買収に踏み切った

 スーパーアプリ構想を具現化した例として宮内CEOが挙げたのは、ソフトバンクグループの中国アリババが手掛ける決済サービス「アリペイ」である。実際にアリペイは決済だけでなく、レストランやチケットの予約、資産管理や保険、小口融資などサービスの幅を広げ、利用者数は6月に全世界で12億人を突破している。

 ただ、宮内CEOはあえて言及しなかったのだろうが、中国にはアリペイと並ぶスーパーアプリがある。それがテンセントの手掛ける「ウィーチャットペイ」だ。

 アリペイがリリースされたのは04年。一方、後発組のウィーチャットペイが登場したのは13年で、既に地盤を固めていたアリペイの牙城を崩すのは困難とみられていた。ところがウィーチャットペイは怒涛の勢いで成長し、中国のキャッシュレス決済市場におけるシェアはアリペイが約50%、ウィーチャットペイは約40%と一気に追い上げた。

 ウィーチャットペイが急成長できた最大の要因は、メッセージアプリ「ウィーチャット」とひも付いていたからだ。ウィーチャットは中国版LINEのような存在だが、規模はけた違いで、月間アクティブユーザ数は10.8億人に達している。

 メッセージアプリはコミュニケーションツールとして1日に何度も使う。買い物のときだけ立ち上げる決済アプリと比べ、ユーザーとの距離は圧倒的に近い。頻繁に起動するアプリを“窓口”にすれば、周辺サービスをユーザーが目にする回数は必然的に増える。

 8200万人というLINEの顧客基盤もさることながら、スーパーアプリの実現に向けて、毎日必ず起動してくれる顧客との接点が欲しかった。これこそZHDがLINEに手を伸ばした要因だろう。