東芝テックが市場関係者やデジタル事業者から評価されているのは、データビジネスの潜在能力が高いと見られているからだ。
主力製品であるPOSレジは、チェーン店などの複数店舗での消費者による購買情報をネットワークで一元的に管理できる。消費者の同意を得られれば、「国内の小売業販売額145兆円の3分の1以上にアクセスできる」(東芝の島田太郎CDO〈最高デジタル責任者〉)。つまり、メーカーがマーケティングに活用できる「お宝データ」を取得しやすい立場にいるのだ。
それだけではない。東芝テックは購買データを有効活用することで、物流や生産を効率化するサービスの構築も目指す。まさに、デジタルソリューションのお手本のようなビジネスの構想を描けているのである。
フィンテック分野のある上場企業役員は「JRの交通系ICカード事業と東芝テックのPOSレジ事業が統合すれば、日本経済の生産性が飛躍的に改善する」と期待する。
そんな優良子会社を、あえて上場企業のまま放置するのはなぜなのか――。
その理由は、「完全子会社化しても他の3社のようにEPSを20%以上改善することはできない」(東芝幹部)からなのだが、その要因は3つある。
1つ目は、海外のPOSレジ事業の大部分が米IBMから買収した資産であるため、「統合後のシナジーを読みにくい」(同)ことだ。他の上場子会社3社の源流が東芝で、社内事情が分かるため統合効果を出しやすいのとは対照的だ。
2つ目の要因として、購買データを活用したビジネスは現状の資本関係(9月30日現在、東芝テック株式の東芝の持ち分比率は52.4%)でも東芝主導で拡大できることがある。
東芝幹部は「他社製のレジでの買い物でも、スマートフォンのアプリを活用すれば購買データは集められる。東芝テックは購買データのビジネスにとって重要なパートナーだが絶対的に不可欠な存在ではない」と言い切る。
最後の3つ目が一番重要なのだが、東芝がそもそも東芝テックの成長性に疑問符をつけていることだ。
東芝テックの営業利益率は19年3月期で3.8%、23年3月期の目標は同6.0%で、東芝全体の利益目標と比べて見劣りする。
しかも、キャッシュレスといった決済の多様化やセルフレジの普及というハードウエア拡販のための「追い風」が吹いているのに、東芝テックは中期経営計画で、現在の売上高4800億円について22年3月期までほぼ横ばいを見込む。
POSレジなど東芝テックの製品はコモディティ化しつつある上に、データビジネスで中計期間中に「大化け」させられるかどうか、同社自身が半信半疑なのだ。