岩石が上昇するメカニズム
それでは、レオナルドの二つの望みのうちのもう一つ、岩石が上昇するメカニズムは見つかったのだろうか。実は、これについては研究者によって少し見解が異なるようだ。しかし、ここでは、アメリカの古生物学者、スティーヴン・ジェイ・グールド(1941~2002)の見解を採用しよう。
グールドの見解では、レオナルドは岩石が上昇するメカニズムを考えついたという。それは、以下のようなものであった。
地球の内部は、岩石でできているが、そのすき間を水が流れている。水によって少しずつ岩石が削られるので、地球の内部には空洞ができる。そして、空洞は少しずつ大きくなっていく。
たとえば、北半球に大きな空洞があったとする。そのとき、北半球の空洞の天井が崩落すると、岩石が北から南に少し移動したことになる。すると、北半球が少し軽くなるので、バランスを取るために、地球の北側では地面が隆起して山を作る。
体重の異なる二人がシーソーに乗ってバランスを取るためには、中心の支点に近いところに重い人が、遠いところに軽い人が乗らなくてはならない。それと同じ原理である(グールドは指摘していないが、地球の重さがアンバランスになる原因として、レオナルドは川による土の移動も考えていた)。
これが、レオナルドの考えたメカニズムらしい。しかし、よく考えると、これだけでは、地面が隆起するメカニズムの具体的な説明にはなっていない。なぜ地面が隆起しなければいけないかという理由が、説明されているだけである。
とはいえ500年前では、このくらいが限界だったのかもしれない。それでも、地球が生物だという考えを、五百年も前に観察や思考実験によって検証しようとしたのだから、やはりレオナルドは時代を超えた人物だったのだろう。