地球の中に血管がある?

 レオナルドは地球を生物(あるいは生物に限りなく近いもの)だと考えていた。でも、だからといって、彼がとくに変人だったわけではない。当時の人々のあいだでは、地球が生物だという考えは人気があった。そういう世間の考えに、レオナルドも染まったということかもしれない。

 とはいえ、レオナルドは、世間の考えに流されるだけの人物ではなかった。地球が生物だとしても、それを人から聞いただけでは納得できなかった。自分で証拠を見つけて納得したかった。そこでレオナルドは、地球が生物だという証拠を探し始めた。

 ここで、一番身近な生物である人間について考えてみよう。人間は頭に怪我をすると血が出る。考えてみれば、これは不思議なことだ。血液は液体だが、液体というものは上から下に流れるはずだ。

 だから、ふつうに考えれば、血液はすべて足の方に落ちてしまうはずである。しかし、頭から血が出るということは、血液が下から上に上昇しているということだ。血液が体の中を循環しているということだ。

 レオナルドは、人間が生きていくためには、この血液が体を循環していること、とくに下から上に上昇することが重要だと考えた。そこで、地球も生物なら、同じようなことがどこかで起きているはずだと思ったのである。

 おそらく地球で、人間の血液に相当するものは水だろう。地球の内部、つまり地下には血管のようなものがあって、その中を水が通っているのではないか。たとえば、山の中には血管があって、その中を水が上昇して山頂に水が噴き出す。それが川となって、山の表面を流れ落ちてくるのではないか。レオナルドはそう考えたのだ(その他に、川の水源として、雲から降った雪なども考えていた)。

 レオナルドの望みは二つあった。一つは証拠を見つけることで、もう一つはメカニズム(しくみ)を考えつくことだ。しかし、残念なことに、レオナルドの望みは両方とも叶わなかった。地球の地下には血管も見つからなかったし、水を上昇させて山頂から噴き出させるメカニズムも思いつかなかったのである。

 それでも、レオナルドは諦めなかった。人間の血液に当たるものが地球の水であるなら、骨に当たるものは岩石だろう。そこで次に、岩石について考え始めたのである。

 人間も地球も四つの元素からできていると、当時は考えられていた。重い方から順番に並べると、岩石(あるいは岩石が細かくなった土)と水と空気と火だ。人間は、これらの元素を循環させて生きている。地球も生物なら、これらの元素を循環させているはずだ。

 とくに岩石は水よりも重いのだから、岩石が上昇することを示せば、地球が生物であることの証拠になるだろう。岩石が上昇するなら、それより軽い水が上昇したって不思議ではないからだ。おそらくそう考えて、レオナルドは岩石が上昇する証拠とメカニズムを探し始めたのだろう。そして、水のときとは違って、今度はうまくいったのである。