例えば今年8月には、ビジネスチャットアプリのDing Talkのために10億元(約150億円)のエコシステム発展ファンドを設立することが発表された。Ding Talk上で動作するアプリの開発者、サービス事業者への補助金原資となる。

 中国最大のネットショッピングセールである、11月11日の独身の日には値引き費用として500億元(約7500億円)を拠出したが、これもシェアを取りたい戦略事業に重点的に注ぎ込まれている。アリババクラウドは1億元(約15億円)規模の割引セールを実施し、仮想サーバーも9割引セールを実施していた。

 多くの新事業に手を出しているアリババだが、その中でも最重要課題はなにか。上場にあたりダニエル・チャン会長兼CEOが公開した投資家への手紙では、グローバル化、国内消費、クラウドコンピューティングの3分野が上げられている。

 グローバル化では東南アジアのECプラットフォームのLAZADA、トルコのTrendyol、パキスタン・バングラデシュのDarazを買収するなど積極的な動き。また決済ではバングラデシュ、香港、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、パキスタン、フィリピン、タイで、モバイル決済の戦略パートナーを確保した。インドはPayTM、韓国はカカオトークのように、各国ごとに異なるローカルブランドとタッグを組み、グローバルの決済圏拡大を目指している。ちなみに日本のPayPayは戦略パートナーには含まれていない。

 国内消費では、「新興地域の都市化、数億人の中流階級の消費者の出現、および消費者全体のインターネットユーザーへの転換」とダニエル・チャンは指摘する。特に重要なのが新興地域だ。中国都市部のマーケットとはすでに成熟しているが、地方都市や農村の勝負はまだ始まったばかり。テレビショッピングの動画版のようなライブコマースやソーシャルECなど新興地域にターゲットを当てた新分野の競争が過熱している。

 そしてクラウド化については、目論見書に次の図を掲載しながら、市場の機会を強調している。

 18年の米中IT支出構造を示したもの。総支出自体もさることながら、IT支出に占めるソフトウェア・サービスへの支出、公有雲(パブリッククラウド)の支出が低いことを指摘し、このあたりにまだ成長余地が高いことをアピールしている。

 グローバル化、国内消費、クラウドコンピューティング……。豊富な資金を背景に赤字覚悟の「焼銭」(短期的な赤字を許容しながら事業を拡大させることを意味する中国語)戦略を展開する方針のようだ。