なお目論見書には「将来の経営上のリスク」についても言及がある。これがなかなか味わい深い内容だ。たとえば次のような記述がある。少し長くなるが引用しよう。

「中国経済はさまざまな面で、大多数の先進国経済とは違いがある。政府の関与、成長水準、成長率、為替規制、資源配分がその違いに含まれる。中国では相当量の生産リソースは依然として政府所有である。

 また政府は産業政策を通じて、その業界の発展についてコントロールしている。中国政府はリソース配分、外貨建て債務の決済管理、通貨政策、金融サービス及び基幹の管理監督、特定業界及び企業への優遇措置を通じて、中国経済の成長に大きな役割を果たしてきた。

 中国経済が過去40年間にわたり高成長を記録してきたが、この成長は地域と各産業においてアンバランスをもたらすものでもあった。中国政府は経済成長をもたらす各種の施策、リソース配分の誘導を実施しているが、それらの施策は中国経済全体に利益をもたらす一方で、我々にマイナスの影響を与える可能性がある。我々の財務状況、経営業績は政府による資本投資の抑制や税に関する法規の変更で大きなマイナスの影響を受ける。

 また中国政府は過去に金利引き上げなど経済成長率のコントロールなど経済活動の減速につながる制作を実行してきた。中国経済の成長鈍化は我々のサービスニーズの減少につながり、我和の業務、財務、経営業績に重大なマイナスの影響を与える」

 ほかにも「中国の法律体系はいまだ整備中であり、規定された法律、法規、規範的文書は不十分である。中国における経済活動のすべてにおいて、その解釈と執行権は管轄当局と裁判所にある」との指摘があった。特に判例が不十分な分野では「管轄当局が一定の自由裁量権を持つ」として、法的リスクの予測がきわめて困難なのだという。中国政府の方針転換によって振りまわされる政策リスクを俗にチャイナリスクというが、アリババグループもチャイナリスクの被害を受ける可能性があると断っているわけだ。