ただし、これだけで野村が今の苦境を乗り越えられるかは未知数だ。 すでに米国では今秋、手数料を無料化するネット証券が出始めている。
その波がやがて日本に到来するのは時間の問題だ。少子高齢化で市場が縮小する上に競争も激化し、証券業は利益を見込めないレッドオーシャンと化す。「いずれは大幅な人員削減に踏み切らざるを得ない。海外が長く、国内営業へのしがらみがない奥田氏のCEO就任は、大規模リストラへの布石ではないか」(野村の中堅社員)。社内ではそんな観測も流れる。
国内リテールの立て直しが急務なのは、それが野村の力の源泉であるからに他ならない。
法人向けのホールセール部門の経験が豊富な奥田氏のCEO就任は、明らかに海外や投資銀行ビジネス強化の方向性を示す人事だ。とはいえ、引き受けた株式や債券などの金融商品を売りさばける国内の強固な顧客基盤なくしてホールセール部門の強化はあり得ない。
野村の海外部門はしばしば赤字や大幅減益に陥り、安定的な収益源とはなお言い難い。
今後は、発行済み株式や債券などを売買する流通市場(セカンダリーマーケット)から、より価格変動リスクが小さい発行市場(プライマリーマーケット)やM&Aなどのアドバイザリー業務を強化する方針だが、前述のように、この世界でも競合がひしめき、競争環境は厳しい。
現状では業績のブレが大きいホールセール事業をいかに安定軌道に乗せるかが、奥田氏の真価が問われるところだろう。
12年にインサイダー問題で前任者が引責辞任し、急きょCEOに就いた永井氏は当時、「根底から会社をつくり替える」と宣言した。
それから7年余りが過ぎ、永井CEOの後継に指名された奥田氏は、当時を振り返りこう言葉を継ぐ。「今はそのときよりも、もっと危機感が強い」。野村の前途はそれほどまでに依然多難だ。
冒頭のメガバンク役員の再編観測に対し、金融庁のある幹部は「野村ほどプライドの高い金融機関は他にない。容易には銀行などとの再編はないだろう」との見方を示す。
だが、野村再建を託された奥田氏がかじ取りを誤れば、“プライドの高い”野村といえども単独路線を維持できる保証はない。