12/6に発売された新型のAI通訳機「ポケトークS」では、引き続きイメージキャラクターとして明石家さんまさんが起用されています。さんまさんといえば、好感度の高さはもちろんながら、大企業でも躊躇するほど出演料が高額といわれます。それでも躊躇なく出演をお願いしたわけとは? エンジニア出身ながらネーミングやパッケージ、広告の重要性を熟知する、「ポケトーク」開発・製造元のソースネクスト松田憲幸社長に、お客さまの印象に残る広告づくりの極意を聞きました。
「ポケトーク」は2019年12月6日に新型機を出したばかりですが、ポケトークシリーズが大ヒットしたもう一つの要因は、広告プロモーションの成功にあったと思います。中でも、イメージキャラクターとして、明石家さんまさんを起用できた効果は絶大でした。
それこそ芸能界で圧倒的なトーク力を持つのが、さんまさんです。トークといえば、さんまさん。私が関西出身だからひいき目でいうわけではなく、全国を見渡してみて、そういえると思います。製品名が「ポケトーク」ですから、キャラクターとしてこれ以上にぴったりな人はいないでしょう。
しかも、「翻訳機といえばポケトーク」と言われるようなデファクトスタンダード(事実上の標準)のイメージを作りたいとき、メジャー感を醸し出すうえで、これ以上にない人選だったと思います。もし競合他社が翻訳機を出してきても、さんまさん以上にメジャー感を出せるキャラクターというのは、そうそういないはずです。
さらに、さんまさんは若い方に人気があるだけでなく、「ポケトーク」の購買層としてぜひ使ってもらいたい60代でもあります。購買を検討しているお客さまに「あのさんまさんが使っているんだ」という好印象を持ってもらえることは、とても大きな意味があります。
ソースネクストの広告は過去にも、「特打」のCMが賞をもらったり、「驚速」やソースネクストの社名を印象深く覚えてもらっていたり、効果的に活用できてきた自負があります。私の方針は極めてシンプルで「基本的に、すべて任せる」ことにしています。
クリエイティブに対して、口を挟まない。なぜなら、そうでないと、いいものは作れない、と思うからです。さんまさんが登場する「ポケトーク」のCMでも同様です。クリエイターに、すべてお任せしました。
今回のクリエイティブを担当しているのは、元電通の齋藤太郎さんが立ち上げたクリエイティブエージェンシーのdofさんです。「角ハイボール」をはじめとするサントリーウイスキーのブランディングを手がけられていることで知られています。私が理事を務めている新経済連盟(代表理事は、楽天の三木谷浩史会長兼社長)のクリエイティブを担当されていたときに出会い、その後、ラスベガスで行われたCES(全米民生技術協会主催で世界最大級の家電技術見本市)の当社主催のパーティーにご招待したときに、「ポケトーク」のCMを作ってもらえないか、とお願いをしたのでした。
実際に「ポケトーク」を見てもらったら、とても感激してもらえました。「この製品は革命的だ!デファクト(スタンダード)を取りましょう」とおっしゃって、重要なことはメジャー感を出すことだ、という意見でした。たとえば「検索」といえば「グーグル」とみなさんが連想するように、「ポケトークする」といえば「通訳機を使って話す」ことを思い浮かべてもらえる状態を目指しています。
その後、日本に帰国して、イメージキャラクターとして提案を受けたのが、さんまさんでした。さんまさんなら、競合の翻訳機がどんなタレントを当ててきても負けないだろう、と直感的に思いました。
事前に、さんまさんはCMに簡単に出てはもらえない、とdofの齋藤さんから言われていましたが、出演していただけることになったのです。まさに奇跡でした。
巨額の出演料を払うべき合理的理由
実は、さんまさんが外国人の女性と2人で出ているCMは、台本なしでたまたまやっていただいたものです。さんまさんの素の雰囲気が出ていて面白かったので、このままCMに使おう、という話になりました。
「ポケトークしよう=通訳機を使って話す」という認知は、さんまさんのおかげで、予想以上に広めることができつつあると思っています。そして家電量販店の売り場に行けば、さんまさんの等身大パネルとともに、「ポケトーク」がどーんと積まれた状態で迎えてくれるので、テレビCMが売り場まで一気通貫で結ばれています。
翻訳機は店頭で販売されているものだけですでに19社から発売されていますが、ひしめき合う売り場の中で、「ポケトーク」は圧倒的な存在感を誇っています。さんまさんの起用は本当に大きな意味がありました。さんまさんのCMをやっていなければ、「通訳機といえばポケトーク」というメジャー感をここまで出せなかったし、95%という高いシェアは取れなかったと思います。
後で聞いた話ですが、実はさんまさんを起用するという提案を受けたとき、すんなり私がうなずいたことに、dofの齋藤さんは驚かれたそうです。日本で最も有名なタレントのおひとりですから、出演料を考慮して大企業でもためらうそうで、本当にお願いしてしまって大丈夫だろうか、と思われたようです。
たしかに高額でしたが、だからといって、出演料の安いタレントで代わりができるか、といえば、私はまったくそんなふうには思いませんでした。というのも、出演料というのは、年に1回だけの投資です。それ以上にお金がかかるのは、CMの枠を買う費用です。そこに数億円なり、数十億円なり必要で、露出を増やそうと思うほど積み上がっていきます。そこでかかる費用は、出演料が安いタレントを使っても、高いタレントを使っても同じです。だったら、巨額の電波代をかけるに見合った効果が得られるタレントに出てもらったほうがいいという判断で、出演料についてためらう理由は、私にはありませんでした。
ソースネクストにとって、久しぶりのテレビCMでしたが、テレビCMが打てるかどうかは、その製品でCMを打つだけの粗利を稼げるか、で決まります。逆にいえば、ソースネクストでしばらくCMを打たなかったのは、それだけの粗利を期待できる製品がしばらくなかったからです。
さらにいえば、テレビCMとの親和性が出るような製品がありませんでした。ところが、AI通訳機「ポケトーク」は違います。外国人旅行者が増え、東京オリンピックまでもうすぐです。この機会にビジネスを広げていきたいという企業も多いでしょう。
日本のために、「ポケトーク」を多くの人に知ってもらいたいし、多くの人に使っていただきたい。それには、テレビCMは非常に有効です。CM以外でも、タクシー広告、電車広告、インフォマーシャルなど、どんどん露出を拡大させました。
「ポケトークS」は英語学習の機能を強化
さんまさんには、2019年12月に発売する3号機となる新たな「ポケトークS」のCMにも登場していただきます。この「ポケトークS」は、従来機と比べて、ガラッと機能や見た目が変わります。
まず見た目では(左写真)、機器の大きさが名刺サイズにコンパクトに、厚さも3分の2となり、重さは25%軽減し、わずか75gになりました。そして、画面は1.3倍に大きく、解像度も高くなり、鮮明に見やすくなりました。二つあった操作ボタンは一つになり、側面に音量ボタンがついて、音量調整もしやすくなっています。
中身も大きくバージョンアップしています。
まず基本動作として、訳されるスピードが一段とアップしています。
さらに、カメラがついて、テキストを撮影すると、それが自動翻訳される機能がつきました。たとえばフレンチのメニューが読めないとき、カメラで撮影すると、すべて翻訳されて、日本語のテキストが表示され、フランス語の音声で発話してくれるのです。
このとき、事前に「フランス語→日本語」と元の言語を設定する必要はありません。どの言語に翻訳したいかを設定しさえすれば、画像認識により自動で元の言語を読み取ってくれます。仕事においても、ちょっとしたメールや論文などをカメラで撮れば、その場で訳が確認できる優れものです。
さらに、これが3号機の大きなウリなのですが、英語学習ニーズを意識した付帯機能が付いています。
その一つが、英会話レッスン機能です。英語はとにかく話して試してみることが重要です。「ポケトーク」があれば一人で簡単な英会話のレッスンができるようになります。海外旅行を想定した「入国審査」や「機内食」「チェックイン」「食事の会計」など、さまざまな全36場面で問われた質問に答えると、また返事が返ってくる、といった練習ができるのです。もし質問に答えられないときは、もともとの通訳機能を使って、英語で何と言えばいいかを確かめることもできます。
近年はスカイプ等を通じた対面式の英会話も流行っていますが、これがあれば好きな時間に好きなだけレッスンができます。また、相手が人間ではないので、仮にうまく話せなくても恥ずかしいことはありません。今後は、英語以外の言語のレッスン内容も少しずつ増やしていく予定です。これによって、「この日本語の表現、英語で何と言うの?」がわかる「ポケトーク」の機能に加えて、スピーキングのレッスンができるようになったので、今後は教育デバイスとしても展開を広げていきます。
これらの新たなサービスは3号機ならではです。これだけの機能が付いて、3万円未満の2万9800円という価格は死守しました。
また、大きな目玉がもう一つあります。
なんと「ドラえもん」バージョンの登場です! アジアで大人気を誇るドラえもんの「ほんやくコンニャク」のような製品が実現したのです。
ワクワクする、しかも役に立つ商品ですから、アジアの人々を中心に多くの方に受け入れられるのではないか、と今から非常に期待しています。ソースネクストのミッション「製品を通じて、喜びと感動を、世界中の人々に広げる」にまさにふさわしい製品ができました。「世界一エキサイティングな企業になる」というビジョンの実現に向かって邁進していきます。(つづく。詳しくは松田社長の著書『売れる力 日本一PCソフトを売り、大ヒット通訳機ポケトークを生んだ発想法』もご覧ください!)