地域住民に無理やり農業をさせるわけにもいかないので、水増し作戦はかなり苦しいロジックで展開されている。そうまでしてJA京都が無理を通しているのは、政治的な思惑があるからだ。
一般的に、JAは地域に住むサラリーマンなどを准組合員として組織に取り込み、住宅ローンや保険をはじめとした「金融サービス」を提供することで繁栄してきた。
全国規模で見ても、今や准組合員数が正組合員数を上回り、「JAは農家のための組織ではなく、ただの金融機関に成り下がった」といった批判にさらされている。
そのため、多くのJAは農家のための協同組合という“レゾンデートル”をぎりぎりのところで保つべく、正組合員の要件として、「耕作面積40アール以上で、年間80日以上農業に従事する」といった基準を定めてきた。
ところが、である。JA京都は耕作面積要件(従来10アール以上)と農業従事日数要件(同50日以上)という農家の2要件を、いともあっさりと撤廃してしまった。全国で初のことだ。正組合員と准組合員という呼称もなくし、農家・非農家にかかわらず「組合員」と呼ぶことにしたのである。
下図を見てほしい。JA京都が正組合員の要件を大幅に緩和した2018年以降、正組合員(JAが呼称を廃止しても、農協法上の正組合員と准組合員の区分は残る)を約1.8万人も増やしている。
18年3月末には約2.4万人だった正組合員数は19年8月末に約4.2万人まで増加。全組合員数に占める正組合員の構成比は46%から79%へ激増した。正組合員=農家の水増しぶりは半端ではない。
京都府には5つのJAがある。すでに、JA京都以外の四つのJA(JA京都にのくに、JA京都やましろ、JA京都中央、JA京都市)でも同様の定款見直しが行われており、地域住民の組織化の動きは、京都府全体に及んでいる。
前代未聞の「農家の水増し」作戦は、現段階では京都府にとどまっている。JAは全国に約600あるが、耕作面積と農業従事日数の要件を両方撤廃する例は京都府以外には見当たらない。