政府の農協改革を有名無実化する「高等戦術」

 政府の「農協改革」の方向性は一貫している。JAを金融事業依存から脱却させて、本業の農業振興に回帰させるというものだ。

 そのため、農協改革の過程では、准組合員への金融サービス提供の是非は常に俎上に載せられてきた。住宅ローンやJA共済(保険)の事業推進が制限なく続けば、優秀なJA職員は金融部門に配属されてしまい、農業部門に人材が割り振られにくくなるからだ。

 政府は准組合員によるJA事業の利用状況を調査しており、利用を規制するかどうかを、21年度から検討することが決まっている。

 JA京都などによる正組合員の要件緩和は、正組合員と准組合員との線引きを曖昧にすることで、政府による准組合員のJA事業規制の機先を制する狙いがあるとみられる。

 実際に、JA京都市は組合員向けの説明資料で、次のように説明している。

〈現下の農協改革では、准組合員の構成比が極めて高い都市型JAに批判が集中し、この先の(政府の農協改革の)状況次第では准組合員の利用規制も取りざたされています。そうなるとJAの経営が継続できず、農業振興に努めるJA本来の役割発揮ができなくなる可能性もあります。さらに、総合事業(信用事業とその他の事業を兼業する形態)を営んでいるJAの強みが薄れてしまいます。今般の組合員の呼称統一には、政府が進める農協改革への対処も含んでいます〉

 まさしく、農協改革の「骨抜き」を宣言しているかのような大胆不敵な意見表明である。

 農協改革への徹底抗戦の決意表明はこれにとどまらない。なんと、正組合員の要件緩和を全国の農協にも呼び掛けてさえいるのだ。

 JAグループの機関紙である「日本農業新聞」の記事で、京都府のJAを束ねるJA京都中央会幹部は「全国のJAで組合員資格変更の取り組みを進めてほしい」、「他のJAでもそういう仕掛けが必要だ」とコメントしている。

 なお、京都府のJAは、農業振興を行うためにも信用事業との兼業が必要という立場だが、少なくともこれまでの総合事業で、農家からの支持は得られていないようだ。

 京都府のJAグループ(JAグループ京都)のトップに20年以上にわたり君臨するJA京都中央会会長の中川泰宏氏が会長を務めるJA京都に対する農家からの評価は極めて低い。

 ダイヤモンド編集部は「週刊ダイヤモンド」2019年3月9日号で財務状況や農家からの支持率でJAの持続可能性を評価した「JA存亡ランキング」を発表した。その中でJA京都は、総合ランキングで全116農協中112位。財務データから、金融事業に依存せずに農業関連事業で利益を出しているかなどを見た「経営健全度ランキング」では全546位農協中409位だった(いずれもランキング化に必要なデータがそろったJAが対象)。