「生活保護、取りましょう」ヤミ金担当者からの誘い

「じゃあ、うちで用意した家に住みませんか?カネも返せますよ」

 数年間にもおよぶつき合いのなか、Kが声を荒げるようなことはなかった。「親身になって話を聞いてくれる」と表現しても言い過ぎではない対応である。この日も、返済額と返済時期を相談するいつもの電話がかかってきたと思って近況を伝えていたら、突然そんな話を持ちかけてきた。

「○○区で物件探すんで、そこで契約してください。今の家と近いでしょ。そして、生活保護、取りましょう」

「生活保護か……」とMは思った。実は、生活が破綻した時すでに、生活保護に頼らざるを得ない事態も想像はしていたのだが、考えるのをすぐにやめてしまった。まず、手続きが難しい。また、たいした金額をもらえないために質素な生活になるというイメージがあった。それは無理だ。

 知人から、地元議員や貧困者支援のNPOに相談して受給できたという話を聞いたこともあった。議員の所属政党やNPO職員が役所に同行して担当者に圧力をかけてくれると耳にしたが、その条件として、相手の小難しい「説教」を何度も聞いたり、彼らの「集会」や「自立支援活動」に参加しながら、関係を長期的に維持することが必要だとわかると「なんか面倒だな」と感じた。結局、「まあ、なるようになるだろう」とまたしても考えるのをやめてしまったのだった。

 Kの話は続いた。

「めんどくさいことはないです。仕事も用意しますよ。1回研修して、うちの言ったとおりやってもらえば大丈夫なんで、とりあえず明後日の午後とか空いてます?」

 とりあえず話だけでもと、その日に行く約束をしてMは電話を切った。