他の設備を見ても、コストカットの結果だろうと想像できるものが散見される。デジタルサイネージを設置した「情報の庭」や長椅子が置かれた「風のテラス」の天井部分の照明こそ、建築家の隈健吾氏がこだわり、ホタルの光を模したデザインとなっているが、その他の通路を照らす多くの照明は特殊なものではない。

新国立競技場「風のテラス」「風のテラス」。照明はホタルが飛び交う際の光の線をイメージしている Photo by T.M.

 おそらく、工事で特に金がかかったのは、労務費だろう。現場では、建設工事に関わっていた建設会社の若手社員の男性が過重労働の末に自殺した労働災害もあり、働き方改革の一環で残業はコントロールされてきた。途中から夜間の工事もなくなったため、日中に多くの人手が必要だった。スタジアム建設に関わった作業員の数は累計でおよそ150万人。ピーク時は1日約2800人が作業に当たった。

 工事費には、労務費や資材費について物価高騰によるやむを得ない事情として工事費の支払いを増額する「スライド条項」が適用され、消費増税分も含めて21億円上積みされた。それでも国は予算内で無事に大会会場が確保し、大成JVは実績と利益を手にすることができたのだろう。

 一般に、契約上の工事費は予算内に収まっていれば問題がなく、工事費の実費は施工の効率化を努力することで圧縮できる。この差額が受注者の利益になる。スライド条項を適用できれば、実費が物価などで上昇した分の差額を発注者に請求できるので、受注者は利益を削らずに済む。

 ただ、競技場そのものについては、年間24億円かかると言われる維持管理費を回収する具体的な計画が先送りとなっている。競技場関係者たちは完成をもって安堵できるわけではない。

 競技場は、五輪はもちろん、その後も使われ続けていくものになっているのか。

 観戦のしやすさに関わる座席の設置角度は、1番下の階層席で20度、中間席で29度、一番上の席で34度と上に行くほど傾斜があるため、どの席からもしっかり競技が見えそうだ。

 ここで気になるのが暑さと寒さへの対策である。