栄和人
19日からの全日本レスリング選手権では、栄監督がセコンドに入るとみられています Photo:JIJI

 パワハラ告発によって指導の第一線から退いていた女子レスリングの栄和人氏が、先ごろ至学館大学の監督に復帰した。19日から行われる全日本レスリング選手権では、2年ぶりにセコンドに入る姿が見られるだろう。

 このニュースが流れて、「伊調馨さんにパワハラをしていた栄氏の復帰を許していいのか」という疑問の声が上がっている。一方、去年から国際大会での金メダル数が激減している状況を案じ、歓迎する声もある。

 私は、騒動がメディアで語られなくなった後も、幾度となく栄氏を訪ね、胸の内に押しとどめてきた葛藤の一端に触れてきた。

伊調選手の告発は認められなかったのに
世間一般は「認められた」と誤解

 多方面から取材をすればするほど、栄氏に対する世間のバッシングの嵐が、まるで何かにあおられたように一方的なものだとの思いが強くなっている。

 論理的に分析すると、栄氏はクロではなかった。どちらかといえば、白に近いグレー。ところが「伊調さん、かわいそう」「栄監督ひどい」「伊調さんには東京五輪で5連覇してほしい!」――そんな国民の声が大きな渦となって、冷静な情報や判断力をメディアも世論も持とうとはしなかった。

 おそらく、大半の人が誤解しているのではないか。日本レスリング協会の第三者委員会は、内閣府に出された告発のすべてを却下している。パワハラも不正経理も、反省・改善すべき点はあるが認められなかったという見解だ。

 しかし、調査の過程で浮かび上がったいくつかの点において、一部パワハラが認められた。その指摘を捉えてメディアは「パワハラがあった」という立場を取った。それを世間は当然のように「伊調さんの告発が認められた」と理解しただろう。だから裁定が出た後も、「伊調さん、かわいそう」「栄さん、謝れ!」の論調はむしろ勢いを増した。

 実際は、一部パワハラは認められたが、伊調さん側の告発は一切認められていないのだ。つまり、パワハラと認められない出来事を並べて栄氏の社会的信用や立場を地に落としながら、告発側は何ら責めを受けていない。本来謝るべきはどちらだろう? という問いかけもない。