なぜ抗体の種類はこんなに多いのか

 私たちの背骨を作っている椎骨や、心臓や肺を保護している肋骨の中には、空洞がある。そして、その中に柔らかいゼリーのような組織が入っている。これが骨髄で、赤血球や白血球を作るところである。

 骨髄では、まず造血幹細胞が作られる。造血幹細胞は血液中の血球を作る細胞で、赤血球やさまざまな白血球に分化していく。抗体を作るB細胞も白血球の一種なので、この造血幹細胞から分化していく。そして、造血幹細胞がB細胞に分化していく過程で、B細胞の中で遺伝子が再構成されて変化するのである。再構成が起きる場所は、抗体の遺伝子だ。

 抗体の遺伝子は、DNAの上でたくさんの領域に分かれている。たとえばヒトのIgGの重鎖の遺伝子では、Vという領域が65個ほど並んでおり、その次にDという領域が27個並んでいて、さらにその次にJという領域が6個並んでいる。B細胞が成熟していく過程で、VとDとJのそれぞれから領域が1つずつ選ばれて組み合わされる。

 選ばれなかった領域は、切り取られてしまう。このような遺伝子の再構成が、それぞれのB細胞で別々に起こるので、重鎖の組み合わせは最大で65×27×6=1万530通りに達することになる。そして、このような再構成は軽鎖でも起こる。

 しかも抗体の多様化は、これで終わりではない。抗体は攻撃する病原体の全体と結合するわけではなく、病原体の一部分と結合する。この、抗体と結合する部分を抗原という。

 遺伝子再構成が終わったB細胞、つまり成熟したB細胞が抗原に出合ったとき、もう一度遺伝子に変化が起きるのだ。それをかけ合わせて、抗体の種類は数億とも数十億ともいわれているのである。

 DNAにはA、T、G、Cという4種類の塩基があり、この塩基の並び方(塩基配列)が情報になっていることは、前に述べたとおりである。この塩基配列の中の塩基が一つだけ変化することを点突然変異という。

 成熟したB細胞が抗原に出合うと、AIDという酵素によって、抗体の遺伝子に点突然変異が起きる。点突然変異によって微修正された抗体の中には、抗原との結合力が低くなったものもあるだろうが、高くなったものもいるだろう。

 この、結合力が高くなった抗体が選ばれて、さらに優れた能力を抗体は発揮するのである。