DNAは変化する

 この謎を解明したのが、1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進だ。それまでは、ヒトが生まれた後は、DNAは変化しないと考えられていた。しかし利根川は、DNAが、ヒトが生まれた後も変化することを発見した。

 その変化が、抗体の多様性を生み出すメカニズムだったのである。

 ヒトの抗体は、5つのクラス(種類)に分けられる。IgGとIgMとIgAとIgDとIgEだ。ちなみにIgというのは、免疫グロブリン(Immunoglobulin)の略称である。この中でIgGがもっとも多く、抗体全体の約75パーセントを占める。一方、IgEはもっとも少なく、わずか0.001パーセント以下しかない。

 しかし、IgEは花粉症を引き起こす抗体として有名である。これら5種類の抗体のそれぞれが、さらにたくさんの種類に分かれている。数十億種類とかに分かれているわけだ。

 代表的な抗体であるIgGは、4つのタンパク質からできている。それらが集まってY字のような形をしている。4つのタンパク質のうち2つは長いので重鎖と呼ばれ、残りの2つは短いので軽鎖と呼ばれる。

 重鎖も軽鎖もそれぞれが、可変領域と定常領域と呼ばれる2つの領域に分かれている。

 定常領域はどのIgGでも同じだが、可変領域はそれぞれのIgGごとに異なる形をしている。人間の体の中にはたくさんのIgGがあるので、可変領域の種類も膨大な数になる。そのため、どんな病原体が体に入ってきても、IgGのどれかがその病原体に対処できるのである。