三菱重工業と日立製作所が、南アフリカでの火力発電所の建設で発生する損失を押し付け合う泥仕合に終止符を打ち、火力発電機器事業の合弁関係を解消する。両社は「円満離婚」を装うが、水面下では電力関連事業で稼ぐ「ラストチャンス」の争奪戦が始まっている。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
親会社の離婚後、再エネ・送配電で
三菱連合vs日立がガチンコ対決
「プライドが高すぎて協力が進まない。三菱重工業とは合わない。(2011年の統合交渉は決裂した経緯があるが)一緒にならなくてよかった」(日立製作所中堅幹部)。
三菱重工と日立はともに日本の近代化を支えたレガシー企業であり、発電機器や鉄道車両を製造する共通点がある。だが、いざ協業しようとすると両社の関係は水と油のようだ。冒頭の発言は日立中堅幹部のものだが、筆者は同様の発言を三菱重工関係者からも聞いている。
両社の相性の悪さによって、設立当初からちぐはぐな印象が拭えなかったのが、14年に三菱重工と日立が立ち上げた火力発電機器事業の合弁会社、三菱日立パワーシステムズ(MHPS)だ。
MHPSは、「三菱重工と日立の強みを生かし、米ゼネラル・エレクトリック(GE)、独シーメンスを抜いて世界一のタービンメーカーを目指す」と宣言して発足した。その言葉通り、18年には大型ガスタービンの受注容量で世界シェア首位を実現した。
だが、皮肉にもこの目標を達成した翌年に親会社の三菱重工と日立は「離婚」することになってしまった。
「離婚協議」が成立したのは、南アフリカでの火力発電用ボイラー建設プロジェクトの損失負担をめぐる交渉が決着したからだ。
同プロジェクトはMHPSが工事を進めてきたが、受注したのはMHPS発足前の日立だ。発足当初から巨額損失の発生が見込まれていたため、損失の負担割合を協議。その結果、MHPS発足前に発生した損失は日立が、発足後のそれはMHPS(つまり三菱重工と日立の両方)が負担することで合意していた。
ところが、それはあくまで「大筋合意」にすぎず、細部においては一致していなかった。三菱重工が同プロジェクトの日立負担分として約3800億円を請求すると、日立側は「法的根拠に欠ける」と支払いを拒否。三菱重工はその後、請求額を約7700億円に積み増し、第三者機関に仲裁を申し立てる事態に発展した。