世界28の言語で翻訳された全仏ベストセラーシリーズ最新刊の日本語版『猫は気まぐれに幸せをくれる』が刊行されました。
寝たいだけ寝て、暇さえあれば物思いにふけり、嫌いな奴が来たら姿をくらませる。飼い主をたっぷり困らせたかと思うと、欲しいものがある時だけ従順なフリをして、実は猫のほうが飼い主を選んでいる……15年間、どんな時でもそばにいてくれた愛猫に教わった、もっと楽しく快適に生きる秘訣を『猫は気まぐれに幸せをくれる』から一部抜粋・再編集してお送りします。

古いものを見直そう

うちの猫の昼寝の場所には、私への贈り物があった©ぱるぱーる

 ものを書く時には猫と同じくらいミステリアスに書いてみたい。
 ――エドガー・アラン・ポー(作家)

 ゆっくり生きる。
 一つひとつのことをゆっくり行う。
 今という一瞬に浸りきる。
 流れていく人生の瞬間瞬間を立ち止まることなく感じる。
 一時もとりこぼすことなく心穏やかに役立てる。

 ダンスをしていて足を骨折した私は、3ヵ月間歩けなくなる事態に陥った。

 部屋から部屋へと、私が転ばないようについて回るジギーのあたたかいまなざしを浴びた3ヵ月間のギプス生活は、作家としての私にとって過去10年間でいちばん多作な時期だった。

 私は何とか自分の置かれた状況に適応しようとした。シャワーを浴びたり服を着たりということ以上に、ものを書く姿勢を変えなければならなかった。体が痛むせいで、より正しく、よりダイレクトに本質に至るように書いた。

うちの猫の昼寝の場所には、私への贈り物があったステファン・ガルニエ(Stéphane Garnier)
1974年、フランス、リヨン市生まれ。レコーディング・エンジニアとして長く働いた後、現在は作家として小説、エッセー、ドキュメンタリーなどを手掛けている。愛猫ジギーとの暮らしを満喫し、その行動から日々得られた気づきをまとめた『猫はためらわずにノンと言う』(ダイヤモンド社)がフランスで20万部を超えるベストセラーとなり、世界28の言語に翻訳された。腕に抱いているのが愛猫のジギー。

 すると、伝え方の調子も変わってきた。いつか私が書いたものを読んでくれる人のためになりたいと切に思ったのだ。

 その間、ずっとジギーは、書類と反古紙の山の上で寝そべっていた。
 私はジギーが昼寝したあとを追って、忘れていたり書きかけだったりした下書きを見直したものだ。
 すると、驚くような気づきがあったり、あれっと思うようないいアイディアをわきに置いていたりしたのに気づいた。

 物事を新しい角度から見ることができて、私は再び筆を執った。ネズミの穴の前の猫のように、目標に達するまでは集中し、ひたすら前だけを見つめてあきらめなかったのだ。

 やり終えたと思ったら、
 もう一度、振り返ってみて。

 古臭く思えたものの中に
 新しいものが見つかるから。