ディープテック系スタートアップのIPO元年

小林:現状でもすでに見られつつある動きですが、宇宙や素材化学、ロボットなどのディープテック(最先端科学研究技術)系企業の上場が見られるようになるのではないでしょうか。

朝倉:オンライン上で完結するような事業ではなく、テクノロジー先行型事業を主とする企業の上場が増えるのではないかということですね。

村上:日本の新興企業に一定の資金が集まるようになってきたことや赤字上場に対する意識の変化を考慮すると、トップラインの成長やKPIの状況から成長の見通しが立ちやすいSaaS系ではなくとも、上場可能な市況になってきているように感じます。

ディープテック系では、足元の数字というよりも、技術の将来性への期待から、IPOが可能になる企業が出てくるものと考えられます。

朝倉:SaaSはグローバルで横比較しやすいのが特徴です。たとえ赤字であっても、SaaSに共通するKPI構造で自社の事業の将来性を一定程度語れたら、投資家も値付けを行いやすい。一方で、ディープテックは事業によって内容のばらつきが大きく、将来の成長性や収益性を見極める上での共通のフォーマットもないため、企業価値の算定が難しい領域ですね。

村上:個人的には、ディープテック領域での数千億円規模の上場は、来年の段階ではまだほとんど見られないのではないかと思います。規模は数百億〜1,000億円程度で、資金提供者も、グローバルな機関投資家というよりは従来のような個人投資家を中心としたマザーズ上場、といったあたりが現実的なシナリオだと予想しています。

ネットやメディア、アプリケーション、SaaSのようなオンラインやサーバー上で完結するサービスは、年月をかけて徐々にグローバルな形式でのIPOが可能になってきましたが、ディープテック系企業の大型IPOに関しては、まだ元年であるという肌感覚です。

朝倉:日本のIT系企業のほとんどは、現状、国内の顧客を対象に事業展開していますが、それでも海外からの資金調達ができるようになっています。
一方で、ディープテックの場合、商品の市場では、顧客が国内に限られない。むしろ海外のマーケットの方が大きいといった会社もあり得るのだけど、こと資本市場においては国内の投資家が中心になるのではないかという点は面白いですね。

村上:資本市場に関しては、フェーズの問題も大きいですからね。ビジネスが育ってくれば、海外からの資金調達も可能になると思いますが、IPO時点ではまだそこまではいかないでしょう。徐々に実績を積みながら、Post-IPOで海外投資家から評価されるようになる会社が多いのではないでしょうか。

小林:日本におけるディープテック系スタートアップIPOの先行事例としては、サイバーダイン社が挙げられますが、他にはまだ類を見ないのが現状です。同社の株価は最盛期に比べると現在は3分の1程度に落ち着いていますが、最盛期についた株価がビジネスの実績だけで説明できるかと言ったら、そうではない気がします。

話題性や革新性は単体で評価するのは難しく、総合評価になるため、個人投資家が先行して投資するという状況が起こりやすいのでしょう。

朝倉:期待が先行すると、株価に大きな変動が見られる局面かもしれませんね。