ドリップコーヒーの98~99%を占めるのは、実は「水」。コーヒーの成分はわずか1~2%しかない。美味しさを左右する要素に、「水」が大きく関係しているのだ。近年、世界のバリスタの間で注目を集める、コーヒーに適した水の秘密とは?
日本テレビ系列『嵐にしやがれ』、NHK『逆転人生』にも出演し話題沸騰のワールド・バリスタ・チャンピオン、井崎英典氏が初めて書き下ろした『ワールド・バリスタ・チャンピオンが教える 世界一美味しいコーヒーの淹れ方』から、その内容の一部を紹介する(撮影:京嶋良太)。
コーヒーのほとんどは「水」
抽出の技術とは別に、味に大きく影響を与えるのは「水」です。
ドリップコーヒーに占める水の割合は、なんと98%から99%です。約1%から2%をコーヒーの成分(総溶解固形分)が占めます。
「濃さ」で有名なエスプレッソに関しても、コーヒーの成分は、約10%程度と90%程度が水で構成されている事実は変わりません。
水には硬度と呼ばれる指標が存在します。「軟水」「中硬水」「硬水」に分類され、水中のミネラルの量で硬度は決まります。日本における抽出に理想的な水の硬度は、1リットルあたり約30~80ミリグラムで、「軟水」に当たります。
私は、約30~50ミリグラムの硬度が良いと思っていますので、その範囲に収まる硬度のミネラルウォーターを購入しています。
ちなみに硬度は、ミネラルウォーターの裏のラベルに大体記載されていますので、そちらを参考に購入してください。WHO(世界保健機関)は120ミリグラム未満を軟水、それ以上を硬水と定めており、日本の水はほとんどが軟水です。
一方、ヨーロッパや北米の水には硬水も多くあり、代表的なものではエビアンなどが硬水に当たります。
ところで、なぜ「日本における抽出に理想的な水の硬度」という言い方をしたかというと、抽出に理想的な水の硬度は、実は国ごとに異なるからであり、硬度は焙煎にも大きく影響を与えるからです。
焙煎の仕上がりを確認するために、ロースターが真っ先に行うことは味のチェックです。その際に基準となるのは、紛れもなく水なのです。
焙煎における味作りは、味のチェックと焙煎の修正を繰り返しますので、その味わいはすべて味作りに使用した水によって決まると言えます。例えば、硬度の高い水を基準に焙煎した場合は、硬度の高い水で美味しく抽出できるように焙煎のプロファイルが作られます。
さて、このコーヒーを硬度の低い水で抽出すると、ロースターの意図した味わいとなるでしょうか。おそらく、焙煎の焦げが目立つ結果となるはずです。すなわち抽出において重要なことは、その地域に適した水を使用することなのです。
水道水を使用する場合は、浄水器を通したり、煮沸の時間を通常よりも長めにとって、カルキ臭を除去した状態で使用することをおすすめします。
なお、私が特におすすめしているミネラルウォーターは以下の3つです。
(1)サントリー天然水(サントリー)
「南アルプスの天然水」など、日本各地で最も手に入りやすく、深煎りにも浅煎りにも向いている万能型のお水です。コストパフォーマンスも良く、我が家でも愛用しています。留意点は、地方によって硬度が若干異なる点です。特に九州地方で売られている「サントリー阿蘇の天然水」は硬度がかなり高めです。コーヒーとの相性に注意しましょう。
(2)クリスタルガイザー(大塚食品)
硬度は約38mg/Lと海外製品にしては珍しく軟水。マグネシウム含有量が国産のものより高いので、酸味やフレーバーの輪郭を引き出したい場合にうってつけの水です。浅煎りの「キレ」「スッキリ」カテゴリーに属するコーヒーはもちろん、ゲイシャ種やナチュラル・プロセスのようなフレーバー豊かなコーヒーを抽出する際に試したいミネラルウォーターです。
(3)丸山珈琲の基準水(丸山珈琲)
硬度はサントリー南アルプスの天然水と同じく約30mg/L ですが、カルシウムとマグネシウムのバランスが非常に優れており、コーヒーの舌触り、酸味やフレーバーもしっかり抽出できる「コーヒー専用」のミネラルウォーターです。「キレ」「スッキリ」「コク」「まろやか」「バランス」全カテゴリーに属するコーヒーに使用できる万能型の水です。