アメリカ・ヨーロッパ・中東・インドなど世界で活躍するビジネスパーソンには、現地の人々と正しくコミュニケーションするための「宗教の知識」が必要だ。しかし、日本人ビジネスパーソンが十分な宗教の知識を持っているとは言えず、自分では知らないうちに失敗を重ねていることも多いという。また、教養を磨きたい人にとっても、「教養の土台」である宗教の知識は欠かせない。西欧の音楽、美術、文学の多くは、キリスト教を普及させ、いかに人々を啓蒙するか、キリスト教を社会にいかに受け入れさせるのかといった葛藤の歴史と深く結びついているからだ。本連載では、世界94カ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)の内容から、ビジネスパーソンが世界で戦うために欠かせない宗教の知識をお伝えしていく。

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「同じキリスト教」という理由で東西が手を結んだ十字軍

 当初は、政治権力と宗教的権力が離れていたローマ・カトリックですが、その後どんどん教皇の権力が強くなっていきます。有名なところで言うと、一〇七七年のカノッサの屈辱です。

 皇帝と教皇が対立し、皇帝のほうが折れて許しを請いに行ったのに、雪の降るなか無視され、三日間もバチカンの門の前で断食と祈りを続けたというものです。

 また、一〇九六年からは、聖地エルサレムを奪還するための十字軍遠征が始まります。

 この頃、ビザンツ帝国は、七世紀初頭に誕生したイスラム教の勢いに押されつつあったため、分裂した西側に助けを要請します。フランク王国の一部を後継した神聖ローマ帝国が西ヨーロッパの広い地域を統治していましたが、「同じキリスト教」ということでこの時ばかりは東西が手を結んだということです。ヨーロッパ全土からキリスト教徒が結集して従軍しました。

 一一世紀から一三世紀まで、なんと七回も遠征した十字軍。それほどまでにキリスト教を信じ、広めようとしていたのですが、領土や財宝の収奪を目的とする侵略戦争の側面もありました。

 十字軍には、略奪などの目的もあったとはいえ、宗教が要因となって他国に攻め入るというのは、日本にはありません。やはり、宗教というものが持つ歴史的な意味合いが日本とは違うのです。

 一三世紀には、イタリアの神学者トマス・アクィナスが、これまでのキリスト教学を体系的に整理した『神学大全』を著しました。体系的かつ理性的に整理する手法はスコラ哲学と呼ばれ、その後のヨーロッパの近代合理性の萌芽と見ることもできます。

 現代の日本では「異教徒に厳しく、紛争が多いのはイスラム教」というイメージを抱く人が多いようですが、世界5大宗教のうち、布教に関連する戦争が多かったのは、後の宗教戦争を含めるとキリスト教であると思います。

 同じキリスト教徒のなかでも、異端者を見つけ出して弾圧することがあり、その一例が「魔女裁判」です。