製鉄所は関連・協力会社が多く、地元経済を支える大黒柱のような存在でもある。今回、日鉄は人員カットを行わないというものの、グループの従業員だけで約1600人が配置換えを迫られることになり、社内外の衝撃は大きい。

 それでも、日鉄がこうした生産拠点の抜本改革に踏み切ったのは、鉄鋼業界が今、前代未聞の窮地に陥っているからだ。

 まず、米中貿易摩擦の勃発による景気悪化をカバーしようと、中国政府が積極的なインフラ投資を実行。それに呼応する形で中国現地の鉄鋼メーカーが過去最高レベルまで生産を急増させたため、原材料の“爆買い”によって鉄鉱石等の価格が高騰している。

 一方で、米中貿易摩擦による世界経済の低迷で鋼材需要はぱっとしない。特に自動車などに使われる主力の「薄板」は、海外市況の下落が激しい。特定顧客向けの「ひも付き」契約についても、値上げはそう簡単でないのが実情だ。

 業績への打撃は深刻だ。20年3月期は、在庫評価差を除いた実質営業損益が製鉄事業を展開する単独ベースで3期連続の赤字になる見通しである。

 連結ベースでも、継続的に赤字を計上していた鹿島製鉄所(茨城県)や名古屋製鉄所(愛知県)といった主力拠点が減損損失の計上に追い込まれ、4400億円の最終赤字に転落する見込みだ。赤字幅は過去最大である。

 こうした状況にあっては、将来の市況回復を夢見てはいられない。そもそも、中国製の鋼材が中国国外に流出し、市況がさらに悪化する恐れも拭えないのだ。国内需要の減少懸念もある上、日鉄の製鉄所はどこも老朽化しており、全ての設備を更新する余裕もない。設備統廃合は必然だった。

 休止する設備は「グループ内で相対的に競争力・実力があるかどうか」(右田彰雄・日鉄副社長)で決断したという。そこに、温情のこもった判断はない。

 日新の呉は、17年に新日鐵住金(当時)が日新を子会社化した際、新日鐵住金幹部が「われわれの技術力を投じれば相当強い製鉄所に生まれ変われる」と豪語していた製鉄所だ。だが、西日本豪雨に見舞われた後に火災まで発生し、「壊滅状態となって閉鎖を余儀なくされた」(日鉄関係者)。

 和歌山の第1高炉は、住金出身者の思い入れがすさまじい。新日鐵住金が誕生する前、「もしこの先、新日鐵と統合することになったとしても、住金の高炉が残るようにと下妻博会長以下、当時の住金経営陣が建てた」(旧住金社員)といわれる高炉だからだ。

 しかし、「和歌山は半製品の供給基地だが、国内を中心に市場縮小が免れないため、必要性が低下する。それに、やはり製鉄所は製品になるまで一貫生産してこそ競争力が出るのだが、和歌山には(粗鋼から鋼材を造る)下工程が少ない」(日鉄幹部)と、こちらもシビアな決断が下されている。