休止候補と目された鹿島が統廃合を免れた訳

 もっとも、これで日鉄の設備合理化策が十分であるとはいえない。

 例えば鹿島だ。赤字であることもさることながら、これまでにも建築向けの薄板ラインやエネルギー向けの「UO鋼管」ラインが止められ、近隣の君津製作所(千葉県)等に集約。それだけに、2月7日の発表前には休止候補と予測する向きが多かったほどなのだ。

 今回、鹿島の高炉が統廃合の対象にならなかったのは、年間716万トン(19年3月期実績)という粗鋼生産量があったからだとされる。日鉄では大分製鉄所、君津に次ぐ規模であり、安易に休止を決めれば他所で代替生産し切れず顧客を失うリスクが高かった。

 鹿島は限界利益(売上高から変動費を差し引いた利益)がまだ出ていたため、再投資が必要ない間は稼働させておくのが賢明だと判断されたようだ。

 ただし、当の日鉄自身が「一層競争力ある最適生産体制の構築に向けた検討を継続する」と明言している。市況悪化と需要減少がさらに進めば、もう一段のてこ入れも辞さないということだ。

「もはや、日本の鉄鋼業界の存在意義が問われている状況だ」。前出の日鉄幹部がこう語るように、個社ベースではなく、競合を巻き込んだ「業界再編成」まで行われそうな雲行きである。言うまでもなく、日鉄が組み得るパートナーは独立を保ってきた神戸製鋼所だ。

 神戸製鋼と製鉄事業を統合すれば、粗鋼生産量年間691万トン(19年3月期実績)の同社の加古川製鉄所(兵庫県)を核に、鹿島を含むさらなる最適生産体制を構築できる公算が大きい。

 神戸製鋼の製鉄事業最大の強みは、自動車のエンジンなどに使われる「線材」と呼ばれる特殊鋼にあるといわれてきたが、ここに来て神戸製鋼の製鉄所そのものの価値が見直されようとしている。

 環境が厳しい中、日新の子会社化がシェア拡大による企業規模の維持に一役買っているように、神戸製鋼との統合もまた日鉄にとって意義があるといえる。