なぜ6つの「20世紀アート作品」なのか?
「アート思考」とはどんなものか、なんとなく輪郭をつかめたでしょうか?
「まだよくわからないな……」という人は、ぜひ拙著『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』もご覧ください。
同書では、アート作品を題材にしながら、アーティストたちが「自分なりの答え」をつくっていくアート思考の過程を体験していきます。とはいえ同書では、みなさんが期待しているほどたくさんの作品は登場しないかもしれません。主に取り上げるのは、「20世紀に生まれた6つのアート作品」です。これには2つほど理由があります。
まず、「なぜたった6つなのか?」の理由です。
いま、専門書や美術書とは異なる一般向けの書籍のなかにも、たくさんの美しいアート作品を紹介し、幅広い教養が身につくことを謳っているものがあります。
しかし、アート思考の本質は、たくさんの作品に触れたり、その背景知識を得たりして、「教養」を身につけることにはありません。
私がお伝えしたいのは、あくまで1つのアート作品をきっかけとして、あなたの「探究」をじっくりと深め、「自分なりの答え」をつくるための作法です。
ですから、いたずらに多数の作品を紹介するのではなく、厳選した6つの作品を通じて思考を深めていくスタイルをとることにしました。
もう1つは、「なぜ20世紀の作品なのか?」に関する理由です。
それは、長いアートの歴史のなかでも、20世紀に生まれたアート作品こそが、「アート思考」を育む題材としては最適だと私が考えているからです。
西洋美術の大きな流れを見てみると、14世紀にはじまるルネサンスから、20世紀が到来するまでのおよそ500年ものあいだには当然、多種多様な「作品」が生み出されました。
しかしながら、現代から振り返ってみると、それらはほとんど共通して「ある1つのゴール」に向かっていたことがわかります。しかも、そのゴールというのは、アーティストたちの内発的な「興味」から生み出されたものというよりは、「外部」からもたらされたものだったのです。
他方、20世紀に入ると、その状況が一変します。19世紀に生まれた「あるもの」が世の中に普及したことで、それまでアーティストたちを惹きつけてやまなかったゴールが大きく揺らぐことになったのです。
それ以来、20世紀のアーティストたちは、自分自身のなかに「興味」を見い出し、そこから「探究」を進めることで「表現」を行っていくというプロセスに、かなり自覚的に取り組むようになりました。つまり、20世紀のアーティストたちには「アート思考の痕跡」がかなりはっきりと認められるのです。