「ヤバい」「すごい」「エモい」…気が付いたら、いつも同じ言葉で会話を終わらせていないだろうか。それで本当に心が伝わっているのだろうか。世の中には無数の言葉があるのに、最適な一言を探し出す努力を怠ってはいないか?
ダイヤモンド社より『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』を刊行したコピーライターの阿部広太郎氏にも、いつもつい使ってしまいそうになる言葉がある。それを戒めるため、彼は自分の言葉にルールを設けている。

「素敵禁止」Photo: Adobe Stock

僕はついつい「素敵」という
言葉を使ってしまう

あなたには、よく使ってしまう言葉はないだろうか?
特定の状況になった時に、反射的にその言葉を選んでしまうというような言葉だ。
「ヤバい」「すごい」「エモい」など、使えば何でもいい塩梅になる「味の素」のような便利な言葉。
僕は「素敵」という言葉がそうだ。どうしても使ってしまう。
だから「素敵禁止」というマイルールを設けている。
その奥にある気持ちはなんだろう?
いちいちそんな風に考えるクセをつけている。

最近こんなことがあった。着物姿の写真をSNSにアップしている女性がいた。
素敵だ、と思った。でもすぐに「素敵禁止」を思い出す。
その奥にある気持ちを探したくて、しばし考えて「可憐です」とコメントをした。
伝えた後、少しの違和感を覚えた。あれ、待てよ、本当にその言葉で良かったのだろうか? そう思い、スマホで新明解国語辞典のアプリを立ち上げて調べた。

【可憐】ひ弱そうな感じがして、無事でいられるよう、暖かい目で見守ってやりたくなる様子。

やってしまったと思った。
決してひ弱そうな感じがしたわけではない。無事でいられるよう見守りたくなったわけでもない。というより「見守ってやりたくなる様子」って、そのやや上からのニュアンスはなんなのだ。違う、違う、そうじゃないんだ。
もう一度考える。僕が伝えたかった思いはなんだ?
似た響きの言葉に、伝えたい言葉があった。

「かれん」じゃなくて「かれい」だ!
そして、再び新明解国語辞典を引くと、「かれい」は2つあった。

【華麗】はなやかで、豪華な様子。
【佳麗】美しくて、品がいい様子。

似ているがニュアンスが異なる。ようやく辿りついた。
伝えたかったのは、「可憐」でもなく、「華麗」でもなく、「佳麗」だった。
僕は「佳麗ですね」とコメントし直した。そんな細かいことを気にしないでも、そう思う人もいるかもしれない。でも、その細かい差の積み重ねこそが、言葉で心をつかめるかどうかの違いになってくると思うのだ。