これは、オセアニア周辺の島々の先住民であるポリネシア人たちが代々つくってきたものです。

写真だけでは実物をイメージしづらいと思うので少し説明を加えましょう。
円筒状の木片が、ココナッツ繊維で織られた生地で覆われています。上部にはこれまたココナッツの繊維でできた模様が縫いつけられています。

なんともコメントしがたいこの物体、いったいなにを表現したものだと思いますか?

これは、ポリネシア人の神さま「オロ」の像です。縫いつけられている単純極まりない模様は、「オロ」の目と腕を表しているそうです。

ポリネシア人は深い信仰に基づいた生活をしていました。彼らの信仰には、豊かなストーリーを持つさまざまな神さまが存在します。なかでも、軍神である「オロ」は、彼らにとって最も重要な存在だといいます。

作品が稚拙なのは、技術が未熟だから?

しかし……いちばん大切な神さまにしては、あまりにもつくりが幼稚です。お世辞にも「上手だ」とはいえません。

「原始的な技術しかなかったから、このようなものしかつくれなかったのでは?」

そう思った人もいるのではないでしょうか? しかし、ポリネシア人はかねてよりさまざまな分野で非常に高度な技術を持っていたことがわかっています。

18世紀にタヒチ島周辺に渡った西洋人たちは、最大全長30メートルほどもある大型のダブル・カヌーが160隻も連なったポリネシア人の大艦隊を目撃したと報告しています。ポリネシア人たちは、文明社会の熟練した航海専門家のような正確さで、遠く離れた島々を航海していたといいます。ほかにも、現在まで残る彫刻・装飾品などからは、彼らの繊細ですぐれた技巧を窺い知ることができます。

さて、そんな彼らであれば、もっと高度な技術で、上手に「オロ」をつくり上げることだってできたはずです。
にもかかわらず、なぜ彼らは最も重要な神さまを、このような素朴な姿で表現したというのでしょうか?