ゼネコン本社のオープンスペースで情報交換し、証拠となるメモや書類は残したまま──。リニア中央新幹線建設工事で入札予定価格を教え合った大手ゼネコン社員たちの手口は、かつて「談合」を担った“プロ”と比べて素人丸出しだった。特集『リニア談合 暴露裁判』(全5回)の#4では、大手ゼネコンの“普通”の社員たちが無知のまま談合に手を染めた経緯を追った。(ダイヤモンド編集部 松野友美)
「他の3社の窓口と協力して進めてほしい」
上司からの依頼に部下は従った──
2015年2月ごろ、清水建設でリニア中央新幹線建設工事の営業をしていた証人のU氏は、上司であり土木事業本部で営業統括をしていた専務(当時)から、本社にある土木工事を担当する部署が集まるフロアの個室に呼び出された。
「品川駅についてプロジェクトチームが積算(工事にかかる金額を積み上げて入札額を計算すること)を進めているよね。実は北工区は清水が受注、南工区は大林組が受注するという話になっている。だから他の3社の窓口(担当者)と協力して進めてほしい」
コンプライアンスに違反するかもしれないという意識は、U氏にあった。しかし、依頼をしてきたのは四半世紀も付き合いのある上司。引き受けなければ上司は困るし、自分の代わりに依頼される部下も気の毒だ。ゼネコン4社間で清水建設の北工区受注が決まっているのなら、自分が反対できるようなものではないと思った。
U氏は上司から大林組と大成建設の窓口担当者の連絡先を聞き、電話をかけてこう口にした。
「中央新幹線品川駅についてご相談があります」