米中両国の「属国」になる可能性もある

中野 むしろ、尖閣諸島の領有権問題などをめぐって中国との軍事衝突の可能性を抱えている日本との同盟関係は、アメリカにとって、自国の戦略的な利益と無関係な無人島をめぐる紛争に巻き込まれる危険性をはらむものだと認識すべきです。ロシアのクリミア侵攻のときに、アメリカが軍事的な対抗を早々に放棄したことを想起しなければなりません。

 実際、アメリカ国家情報会議で分析業務を担当していたマシュー・バロウズも、「もし中国と衝突しても、アメリカが自動的に日本の味方をしてくれると、日本の指導者たちは誤解しているようだが、現実にはアメリカは自国の利益と中国の利益の間に折り合いをつけ、紛争は回避する可能性が高い」と述べています。

――厳しいですね……。

中野 もっと言えば、もしアメリカが中国を東アジア秩序の基軸と認めるとすると、中国に対抗しようとする日本は東アジアを不安定化させるおそれがあり、アメリカにとって好ましからざる国家ということになります。アメリカは、1992年の国防プラン・ガイドにおいて、日本を地域不安定化の撹乱要因として名指ししていたのですから、十分ありうることです。

 そうだとすると、アメリカは中国を地域覇権国家とする東アジア秩序を容認したうえで、日本に対しては、中国中心の東アジア秩序に従属することを求めることになるというシナリオもあり得ることになります。それは、日本が事実上、米中両国の「属国」としての地位に置かれることに等しいわけです。このような、日本にとって悪夢のようなシナリオも、決して非現実的ではないんです。

――そのような事態を防ぐには、日本は自主防衛について真剣に考える必要があるということですか?

中野 当然のことではないでしょうか?

 アメリカのグローバル覇権が後退すれば、東アジアにおいて中国の台頭を抑止することが困難になり、日米同盟を前提とした日本の安全保障戦略は根本から崩れることになるのは、自明のことだったはずです。にもかかわらず、アメリカの覇権国家としての寿命を縮めるイラク戦争を日本が支持していたというのは、皮肉と言う気になれないほど、愚かなことでした。

 しかも、2000年代に、中国が軍事費を年率二桁台のペースで増大させていたにもかかわらず、日本は財政再建を優先するために防衛費を削減しました。2003年以降の10年間で中国が軍事費を3.89倍にしたのに対して、日本の防衛費は0.95%と逆に減らしていたんです。

 その結果、日中の軍事力の格差は、飛躍的に拡大することになりました。戦争を避けるためには、このような勢力不均衡をつくってはならなかった。遅くとも、2000年代後半には、この現実に気づいて対応をするべきだったんです。

――ここで、財政の問題がかかわってくるんですね?