会計&ファイナンス物語・最終話
Illustration by Hitoha Sumi,Yuuki Nara

危うい財務テクニックで企業再建を手掛けるザイテック社の小室と、世間が注目する企業経営者である剛田。二人がつながっていたことまでに、やっとたどり着いた。しかし、財前がロンドンで襲撃された事件の背景は分からなかった。どうやらヒントは国際会計基準にありそうだ。特集『会計&ファイナンス』の物語・最終回では、全ての謎が一つの真実へとつながっていく。

「週刊ダイヤモンド」2020年2月29日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの

>>物語・第1話『決算書を理解せよ!新米の女性経済記者が命じられた初仕事』から読む

>>物語・第2話『粉飾決算の兆候を見抜け!疑惑の先行計上と循環取引』から読む

>>物語・第3話『「のれん代」「キャッシュ重視」財務用語の謎を解け!』から読む

たどり着いた確固たる結論とは?

 浅倉には確固たる結論があるようだったが、悟郎と真弓に話してくれるわけではなかった。そして、しばらくすると、休暇でも取っているのか、不在がちになった。

 動きがあったといえば、財前についてだ。

 日本の週刊誌が財前の事故を取り上げ、不審な事故だとか、国際的な陰謀かなどと書き立てていた。特に真実に迫るような内容はなかったが、現在、財前が英国の病院で療養中であり、しかも意識が回復しそうだ、と書いてあったのは意外だった。あれほど財前のことを心配していた浅倉から、回復の兆しがあるとは聞いていなかったからだ。

決戦の記者発表会

 3週間後、悟郎と真弓は久しぶりに特別財務資料室の浅倉に呼び出された。浅倉は、二人の顔を見るなり言った。

「準備はできました。この記者発表会に、皆で参加しましょうか」

 上場後もATGは世間の注目を集めていた。そして、ネット分野での新サービスを開始すると発表し、その詳細が明かされる記者発表会が来週、高級ホテルの大会場で予定されている。

 浅倉はその招待メールのコピーを手に、三人で参加しようと言っている。左遷されて以降、めったに取材に出かけなくなった浅倉が、自分から声を掛けてきた。きっと何かプランがあるのだろう。二人は同意した。

 発表会当日――。真弓と悟郎と浅倉は、三人並んで座っていた。剛田の新しい会社では世の中のありとあらゆる製品や飲食店、旅行などのサービス、本や映画、音楽、果ては芸能人や政治家までを評価するサイトを作るという。

 言われてみれば、それら全てのレビューを1カ所で見られるサイトを真弓は知らなかった。目の付けどころはいいのかもしれない。プレゼンテーションも終盤に差し掛かる頃、剛田が切り出した。

Illustration by Y.N.

「さて、本日の発表には、One More Thing、もう一つあります。このフレーズを言ってみたかったんですよね。

 実は、この新サービスのアドバイザーとして、日本におけるAI研究の第一人者である東大先端技術研究センターの長谷川准教授をお迎えすることになりました!」

 会場はどよめいた。確かに、長谷川は世界に名をはせる有名人だ。それにしても、アップルの創業者、故スティーブ・ジョブズのフレーズ「One More Thing」をまねるとは、剛田は自分を一流経営者だとでも思っているのだろうか。そんなことを考えていると、記者から質問を受け付ける質疑応答の開始が告げられた。

 幾つかの記者の質問に答えると、司会者は手を挙げていた浅倉を指名した。浅倉は、それまでの空気を読むことなく、いきなり切り出した。