『利己的な遺伝子』のリチャード・ドーキンス、
『時間は存在しない』のカルロ・ロヴェッリ、
『ワープする宇宙』のリサ・ランドール、
『EQ』のダニエル・ゴールマン、
『<インターネット>の次に来るもの』のケヴィン・ケリー、
『ブロックチェーン・レボリューション』のドン・タプスコット、
ノーベル経済学賞受賞のダニエル・カーネマン、リチャード・セイラー……。

そんな錚々たる研究者・思想家が、読むだけで頭がよくなるような本を書いてくれたら、どんなにいいか。

新刊『天才科学者はこう考える 読むだけで頭がよくなる151の視点』は、まさにそんな夢のような本だ。一流の研究者・思想家しか入会が許されないオンラインサロン「エッジ」の会員151人が「認知能力が上がる科学的概念」というテーマで執筆したエッセイを一冊に詰め込んだ。進化論、素粒子物理学、情報科学、心理学、行動経済学といったあらゆる分野の英知がつまった最高の知的興奮の書に仕上がっている。本書の刊行を記念して、一部を特別に無料で公開する。

著者 デイヴィッド・マイヤーズ
ホープ大学の社会心理学者。著書に『懐疑主義と無神論者への好意的な手紙(A Friendly Letter to Skeptics and Atheists)』
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人は失敗を自分のせいだと
思いたがらない

 人間は普通、自分自身のことは高く評価する。自分をよく思えるのは楽しいことだが、危険も多い。社会心理学では、これを「自己奉仕バイアス」と呼んでいる。

 人間は成功を自分のおかげだと思いたがる一方で、失敗は自分のせいだとは思いたがらない。良い行いは自分のものだと進んで認めても、悪い行いは自分のものだと認めない。

 実験でも、思いどおりの結果が出たときにはすぐにそれを受け入れる。自分に能力があり、努力もしたおかげだと思いたがる。しかし失敗したときには、その原因を、不運や実験の難しさなど、自分以外に求める。

 スクラブル(訳注:アルファベットの文字が書かれたコマを使って単語を作成するゲーム)で遊んでいて、勝ったときには自分の語彙力が優れているおかげだと思う。だが負けると、「Uがあるとよかったのに、Qしかなかったから」などと言い訳をする。

 自己奉仕バイアスは、スポーツ選手にも(試合に勝った場合、負けた場合)、学生にも(成績が良かった場合、悪かった場合)、ドライバー(事故を起こしたとき)、経営者(業績が良かった場合、悪かった場合)にも見られる。「私がいったい何をしたというのか?」というのは、何か問題が起きたときの言葉だ。決して何かが成功したときの言葉ではない

高校生の25%の人が自分のことを
「人付き合いのうまさが上位1%に入る」と回答

 人は自分のことを平均よりは上だと思いたがる。他人が自分を愛する理由は色々だ。たとえばどういう理由があるのか考えてみよう。

 自分は他人と比べて平均以上だと考える現象を一般に「レイク・ウォビゴン効果」と呼び、この現象は子供にも見られる。

 非営利組織カレッジ・ボードが高校の最上級生82万9000人を対象に実施した調査によれば、自分のことを人付き合いが平均より下手だと思っていた生徒は0%、人付き合いのうまさが上位10%には入ると思っていた生徒が60%にもなった。しかも、自分が上位1%に入ると思っていた生徒が25%もいた

 自分の思い描く自分は、ほぼ誰にとっても平均以上だ。頭も外見も平均よりいいし、偏見も平均より少ない。平均より道徳的だし、健康で、きっと平均より長生きする。

 フロイトのジョークに私たちの持つこの偏見がよく表れている。ある男が妻に「僕らのうちどちらかが死んだら、僕はパリに引っ越すよ」と言ったというジョークだ。

 車を運転する人に尋ねると、10人中9人までが自分を平均より上のドライバーだと答える。とにかく自分ではそう思っているわけだ。

 大学教授は、90%以上が、自分を平均以上に優れた教授だと思っている(当然、能力が高く評価されなければ、強い不満を持つし、評価されている他人を妬みもする)。

 夫と妻に「自分は家事の何%を負担していると思うか」と尋ねたり、もしくは、ある職場のチームに属するメンバーに「自分の仕事への貢献度はチーム全体の何%だと思うか」と尋ねてみると、その合計は100%を超えるのが普通である。

自己奉仕バイアスを
回避するための処方箋とは

 自己奉仕バイアスについて、またそれによく似た錯誤楽観主義、自己正当化、内集団バイアスなどについて調べていると、常に思い出すのが「驕れる者久しからず」という言葉である。これは文学や宗教が私たちに教えてくれる教訓でもある。

 自分自身や自分の属する集団について良く思えば、確かに希望を感じて元気になり、ストレスにも耐えやすい。しかし、やはり弊害のほうが大きいだろう。

 自分や自分の集団を不当に高く評価しすぎると、夫婦の不和にもつながり、他者を見下すような態度を取れば、交渉ごとはことごとく決裂する。国家間の交渉でその態度で臨むと、やがては戦争になりかねない。

 自己奉仕バイアスにはどんなに注意してもしすぎることはない。謙虚になりすぎて困ることもないだろう。自分と他人の能力、美徳を同様に正しく評価できるのが良策なのは間違いない。