店舗では「売らない」
1円単位で顧客生涯価値を算出
「メーカーから顧客の一方通行ではなく、顧客からメーカーへも情報が発信できる時代。ECや店舗、SNSなどで直接的な接点を持ち、顧客の一次情報を手にできるのが、D2Cモデルの強みだと感じています」
こう話すのは、D2Cモデルでオーダースーツ販売サービスを手掛けるFABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)代表取締役社長の森雄一郎氏だ。同社のサービスは商品企画から販売までを一貫して手がけ、低価格で高品質のスーツを提供できるのがウリだ。2017年から前年比2倍以上の成長率で売り上げを伸ばし、昨年5月には丸井グループから10億円規模の資金調達を実施するなど、事業を拡大させている。
FABRIC TOKYOは販売チャネルとして、自社ECのほか、東京や大阪など都市部を中心にリアルな店舗を持っている。しかし、こうした店舗の役割は「スーツを売ること」ではない。
「店舗は、『魅力を発信するメディア』だと捉えています。FABRIC TOKYOがどういう存在なのかを伝えたり、気軽に採寸データを登録しに来てもらったりする場として機能しています」(森氏)
アパレル小売店の店舗スタッフは売り上げを指標にするのが一般的だ。しかし、FABRIC TOKYOでは、店舗の売り上げを重視しない。代わりに、顧客のブランドに対する愛着度を指標化するNPS(ネット・プロモーター・スコア)を用いて、顧客の満足度を測る。大切なのは目先の売り上げよりも、5年、10年と同社の商品を選び続けてくれるファンを作ることだ。店舗は、こうした目標を実現するために欠かせないツールとなっている。
一方で、リアルな店舗を兼ね備えながらも“デジタル機軸”なのが、D2Cモデルの特徴だ。
同社ではECサイトや店舗などのチャネルを通じて、さまざまなデータを取得。10万件に上るパーソナルデータを保有しているという。これらのデータの活用により、「5年間のLTV(顧客生涯価値)が1円単位で予測できる」(森氏)ほど、きめ細かく事業の見通しが立てられる。