D2Cブランド2つの課題
“デジタル機軸”にシフトできるか

 とはいえ、「中抜き」でコスト負担が下げられたとしても、事業が成長するかどうかは別の話だ。顧客と直接的な接点を持つということは、裏を返せば顧客を引き付けられるかどうかも自社次第ということだ。

 FABRIC TOKYOの森氏は、D2Cモデルの難しさとして「先行投資が大きくなること」を挙げる。既存の流通網に商品を乗せるのではなく、新たにネットワークを作り上げる必要があるため、一定の売り上げが確保できるまでは耐える時期が続く。ECサイトの構築だけでなく、生産管理システムの整備やオウンドメディアの運営など、自社で担う部分が大きいほど、ブランド立ち上げのためのコストは高くなる。

 加えて、デジタル人材も欠かせない。さまざまなタッチポイントを通じて顧客データが集まってくるのは魅力的だが、それを使いこなせる人材と環境が必要だ。企画から販売という幅広い領域を自社でカバーするため、それぞれの専門性を兼ね備え、かつ「“テクノロジー機軸のDNA”を持った人」(森氏)という条件が付く。

 モノを売る環境は絶えず変わり続ける。D2Cの興隆は、効率的な販売のためにデジタルを活用する時代から、デジタルを活用しながら企画から販売まで幅広い領域を自社で担う時代への移り変わりの一歩ともいえそうだ。これには「部分的なデジタル化」では太刀打ちできない。バズワードに飛びつく前に、まずは組織体制などを含んだ抜本的なデジタル化が急務である。