超老舗メーカーが
D2Cブランドを立ち上げたワケ
D2Cブランドの担い手として名前が挙がるのはベンチャー企業が中心だが、そのビジネスモデルには大手メーカーも大いに注目している。すでに流通チャネルが整っていても、売り場である小売店は減少傾向にある。将来のビジネスのために「直接的な顧客との接点」を持っているに越したことはない。加えて、デジタル活用も大きな課題の一つだ。
こうした中、創業200年を超える老舗食品メーカーのミツカンは、D2Cモデルで野菜を丸ごと使った食品ブランド「ZENB(ゼンブ)」を立ち上げた。ZENBは、同社の10年先を見据えた取り組みの中で開発された加工食品だ。皮や芯も含めて野菜の栄養素を余すことなく使い、体にも優しいのが特徴だ。
ZENB事業の責任者であるミツカンホールディングスのCDSO(チーフ・ダイレクト・ストラテジー・オフィサー)高橋宏祐氏は、ブランド立ち上げに際し、「『ミツカン』という名前に頼らず、グローバルでも勝てるブランドにしようと考えた」と話す。
日本国内では食酢などの調味料メーカーとして有名なミツカンだが、実は米国でパスタソースを展開するなど、売上高の半分は海外だ。しかし、海外では「ミツカン」という名前を押し出していないため、ミツカンブランドに頼ることができない。同社の調味料のイメージと異なる全く新しいジャンルの商品という難しさもある。こうした背景から、従来の小売店を介した流通ではなく、直接的に顧客にアプローチできる「D2Cモデル」でZENBを展開することを決めた。
顧客との接点は新たな気付きをもたらした。たとえば、SNSでは、発売当初には想定していなかった使われ方をしていることがわかった。
「当初は健康志向の方に買っていただけるのではないかと想像していましたが、ペーストタイプのZENBをパンに塗って食べている方が一定数いることがわかりました。さっそく、『パンに合わせておいしい』という広告クリエイティブに変更。売り上げも大きく伸びました」(高橋氏)
自社ECで販売するため、こうした施策に対する反応がダイレクトに反映されることも魅力だ。
「D2Cは数字がすべて。毎朝どんな商品が何点売れたかを見て、施策を改善しています」(高橋氏)
まだ挑戦は始まったばかりだが、将来的にはミツカンを代表するブランドを目指し、100人規模の人材を投入する。新たな商流で育てるブランドにかかる期待は大きい。