ラーメンとケーキを一緒に売るな!に反論する
田端 俺らは営業に行ってるつもりなのに「勉強になりました。ありがとうございました」とか言われても、がっかりというか、複雑な心境じゃないですか。そういう中で、唯一マジレスしてくれたのが、電通の雑誌局にいた内田正剛さんという方です。僕の5つぐらい年上かな。「このままじゃダメです」と。すごいうれしかったですね。
最近、電通は悪く言われることも多いですが、彼らの”お小言“を全部かなえたら、代わりにちゃんと売るとコミットしてくれます。結果、『R25』は全ページが電通の買い切りだったんです。これがいい判断だったのかどうか、僕はいまだによくわかりません。でも、電通が買い切ってくれた時点で最初のハードルの6-7割は超えたし、それがなかったら表に出られなかったかもしれないという点で、間違いではなかったと自己正当化するしかないですけど。内田さんにしても、当時から雑誌は斜陽になりかけていて、このまま雑誌局で同じ仕事をやるより、何か新しいことやってやろうぜ!みたいな野心もあったと思うし。最後は、人間同士の野心が呼応したというかですね。
山口 最初に『R25』への広告出稿を決めてくれた大型クライアントはどこだったんですか。
田端 実質的に影響が大きかったと思うのは、ネスレさんとコカ・コーラさん、全日空(全日本空輸)さんですかね。彼らの出稿のおかげで、電車の中吊り広告も連動させるなど大きな仕掛けができました。2枚横長の中吊りは「ワイド」って呼ばれて、東京都心で1週間これを買うと1500万ぐらいかかっていたんですけど、リクルートはワイドを沢山買っていたのでほかの広告主より安く買えるんですね。だから、さらに読者の目に入りやすいよう、『週刊文春』とか『週刊新潮』『AERA』などのつい見てしまう雑誌広告に混ぜ込んだりして。
山口 おお、かなり大掛かりに。
田端 ただし、リクルート社内では、ものすごく評判が悪かった。今の社長の峰岸(真澄)さんが常務だったと思うんですけど、「ラーメン屋を始めたんじゃないのか。800円のラーメンを売りたかったのに、なんでよそのショートケーキを500円で仕入れて、しかも1300円で売れるものを1000円で売ってるんだ。おかしいだろう」と言われたりして。要は、自分たちの商品性のダメさを覆い隠して、無理やり必然性のないものをセット販売している、というわけ。しかも、電通の販促費でやるべきコストを、なぜ自分たちでもってるのか、と。
だから僕はとっさに「お言葉ですが」と、「フリーマガジンと中吊り広告は、ラーメンとショートケーキほど遠くなくて、ラーメンと餃子セットぐらい導線が近いんです」なんて反論したんですよね。結局、当事者間でいろいろなコミュニケーション・コストがかかりすぎるので、同じ船に乗ってることを明確化するために、電通とリクルートの合弁会社(Media Shakers)をつくることになったんですけど。
僕は、こういう経験を通じて、BtoBとBtoCの最大の違いは、BtoBだと営業マン同士の人と人のよりガチなぶつかり合いになることだ、と思いましたね。