社内政治をいかに突破するか

山口 次に入社されたライブドアでも広告営業をされていたんですか。

田端 最初はライブドアニュースというコンテンツの責任者で、広告営業は別の担当者がいたんですよね。でも、ライブドア事件が起きてから広告営業も見るように言われて、それがネットの広告営業をやった初めての経験でした。それも、ライブドア事件で広告メディアとしては傷がついた状態で、マイナスからのスタートでしたね。

山口 ライブドアでも、ナショナルクライアントの偉い人たちからお金を出してもらうために、「怪しくないです」という営業から始められたわけですね。

田端 その通りです。ただ、『R25』で見た昔ながらの雑誌広告の世界から、新たに立ち上がったネット広告の世界に行ってみたら、メディアと代理店の関係が良くも悪くも他人行儀というか、ビジネスライクなんだなとわかりました。悪く言いたいわけじゃなくて、たとえば1クリック100円と決まったグーグルのクリック課金型広告を売るというのは、人間が介在する価値もないぐらい簡単ですよね。地方のラジオニュースの枠を売るなんていったら、何の統計数字もない中でとにかく売るしかない。そういう世界と比べたら。むしろ後者のほうが人間の介在する付加価値が高いわけです。

山口 売りやすい数字エビデンスが弱い広告ならば、売れたのはその人のおかげということですよね。その後に、外資系のコンデナストに移られるわけですね。『VOGUE』や『GQ』『WIRED』といったメディアがあったわけですけど、ここでもデジタル広告の立ち上げをされたんですよね。

田端 ウェブサイトをつくったり、iPad向けのデジタルマガジンをつくるところから始めました。ただ、おそらくグローバルなメーカーと比べて恵まれていたのは、各国の自治権がかなり強かったことです。各誌のエッセンスを理解した編集長を誰にするかといった人選にはすごく気を遣うけど、それ以外の細部はローカルに任せる体制だったんですよね。だから、プロダクトやブランドのトンマナ(トーン&マナー。デザイン等の一貫性)を本国の縛りがきつくて日本に合わせて変えられない、というような苦労はありませんでした。ただ、紙とネットの戦いみたいなものは日本の組織内ですごくありましたけど。

山口 どんなことがあるんですか。

田端 たとえば紙のコンテンツがいっぱいあるわけだから、それをそのままでき上がったウェブサイトに転載すればいいじゃないですか。でもそれをやろうとすると、紙の媒体の人たちから「田端さんのKPI(評価指標)はページビューやユニークユーザーだからいいけど、ウェブに転載することで紙が売れなくなったらどうしてくれるんですか、責任とってくれるんですか」と猛反対が起こる。「ネットで見ても、紙を買う人は買いますよ」と反論しても、水掛け論になる。実際、月刊誌であれば、紙の実売は最初の1週間でほぼ収束してしまうわけだから、1ヵ月の間にちょっとずつ雑誌の内容をネットに載せてみて、実売に影響あるかどうか見ましょうよ、といった話を延々としていました。

山口 実際にやってみたんですか。

田端 もちろん。紙の売れ行きに基本的には影響はなかったし、デジタルの売上が伸びれば会社としては純増だからいいじゃないですか。

山口 そうやって、またネットで広告営業をやっていかれたわけですね。

田端 まあでも、『VOGUE』みたいなメディアは、出したい広告主はごまんといるので広告営業で困るということはないんですよ。ただ社内的にはトップダウンで全体予算の何%をデジタルに振り向けろ、といわれるのに、打つべきいいウェブメディアが足りない状態で苦労しました。あるレベルをクリアしたメディアさえ見つかれば絶対売れますからね。むしろ、社内政治の力学を突破して、それをやりきれるかのどうかが大事でした。デジタルマガジンを見ているときと、紙をめくっているときの視界への入り方や映ってる時間とかで、いかに紙とデジタルで効果が変わらないかを示したりですね。(明日公開の後編につづく)