気づかないうちに「不安に感染」していないか?
――ボディスキャンは寝転びながらやれるので、そのまま眠れそうでいいですね。それ以外で、目に見えない「心の疲れ」を軽減するうえでは、どんなことに気をつければいいでしょうか?
ウイルスに感染しないことも大事ですが、やはり「不安に感染しない」ように心がけていただきたいですね。不安の感染拡大を招いているのは、やはり「メディア」です。
もちろん、適切な情報収集は必要です。しかし、ろくに外出せずに自宅にいる状況だと、1日のうちに何度も繰り返しネットニュースを見たり、同じようなニュース番組を視聴したりしがちです。さらに、現代人はそれらのニュースにコメントをつけて、SNSで発信したり反応したりもしていますから、不安を煽る情報がねずみ算式に「再生産」される構造になっているんです。
――たしかに、ふと気づくとつい「今日は日本の感染者数・死亡者数はどれくらい増えただろう?」と気にして、ニュースアプリをチェックしている自分がいます。株価だって上がっているはずないのに、わざわざチェックして「ああ、今日も下がっているな」と暗い気持ちになっていたり……。
公衆衛生の観点では、「数字」に基づいた議論というのは欠かせません。しかし、不安を煽る情報には、こういう「アディクション(中毒)」を引き起こす特性があります。脳が一種の依存状態になり、何度もニュースを確認してしまう。
Availability Biasという言葉があって、目の前にある情報に人は影響されやすい。また、「耳寄りな情報」を他人に伝えるときには、人は自尊心を満たされます。情報が刻々とアップデートされる状況下では、人間は情報に対して「過覚醒」の状態になり、ものすごい勢いで情報が広がっていきます。
東日本大震災のときも、テレビの前で茫然となりながら、ひたすら繰り返される津波の映像を観ていたという人は多いのではないでしょうか。あるいは、原発事故についても、大勢の「素人」が懸命に情報収集をし、デマも含めた不確かな情報を発信し続けていました。そこにあった人々の使命感や善意を否定するつもりはありませんが、あのとき私たちは一種の「情報依存症」の状態にあったと言えそうです。