新型コロナが炙り出した、私たちの「認知の歪み」

――SNSなどを見ていると、ふだんはとてもロジカルで知性的な人が、冷静さを失っているようなケースも見かけます。

 イーロン・マスク(スペースX、テスラの共同設立者)などは、ツイッターで「Fear is the mind-killer」とつぶやいています。「恐怖は人の心を殺す」というような意味でしょうか。日常的にリスクと対峙している経営者などのなかには、こういう時期でも毅然と立ち向かえるタイプの人が一定数いますよね。

 こんなときには彼らのような人をモデルにしてみるのも一つかもしれません。とはいえ、やはり不安の感じやすさには個人差があり、もともと不安が強い人は、どうしても不安を感じやすくなります。

 いまは、もはやディストピアSF小説の世界のように「誰がウイルスを持っているのか」とお互いに疑心暗鬼になっているような状況ですよね。新型コロナウイルスに伴う集団心理は、SARSなどのときよりも、エイズウイルスや不特定殺人が起きたときと似ているという向きもあります※。

 こういう危機のときには、われわれの心のなかに巣食っている「考えの歪み」がクローズアップされてきます。不安というのはその代表格です。だから、どんなに学識がある人でも、不安が強い人は理性が吹っ飛んでしまって「パニック買い」に走ったりする。

 アメリカだとやっぱり「人種差別」の問題が顔を出しますね。コロナウイルスが拡大してきたときにも、最初はアジア人を忌避するような風潮がありました。私もエレベーターに乗った際、すでに乗っていたアメリカ人が軽くマフラーで口を覆うのを目にしたことがあります。私をアジア人と見たからでしょうか。あるいは、そう感じてしまった私のほうに「歪み」がある可能性だってあります。

 とにかく大事なのは、自分の「考えの歪み」を意識することです。「自分だけは対処できないのではないか?」と自分の能力を過小評価して、過剰に心配していないか? あるいは逆に、「自分だけは大丈夫だ」と思い込んでいないか? もう一度、自分に問いかけてみるのもいいでしょう。