忘れてはならない
「自分たちは恵まれている」という意識

――先生もさきほどご指摘されていたとおり、こうした状況はかなり長引く可能性も指摘されています。そうしたなかで、意識しておくとよさそうなことがあれば、ぜひお願いします。

 まずは、自分が置かれているよりも悪い状況をイメージし、「自分はましだな」という視点を持つことです。これは心理学上の一つのトリックとして知られていて、専門用語ではRelative Deprivation(相対的剥奪)などと呼ばれます。

 たとえば、外出自粛要請のせいで家から外に出られなくてストレスが溜まっているとしましょう。そういうときに、たとえば、「戦争であれば核シェルターで怯えていなければいけなかったかもしれない」とか「牢屋に入れられている人よりは自由だ」というふうに考える。あまり趣味がいい方法には思えないかもしれませんが、たしかに心を軽くする効果があります。

 私も患者さんにヴィクトール・フランクルの『夜と霧』を読むように勧めたりしました。アウシュヴィッツのユダヤ人強制収容所のような極端な状況と比較すると、いま私たちが置かれている状況っていうのが少し冷静に見えてきます。

 すると、心が落ち着くだけでなく、いろいろなものに感謝の気持ちが持てる。たとえば、対面だと感染リスクがありますが、いまは幸いビデオカンファレンスのようなテクノロジーがあります。人類は進歩しているのです。

――なるほど。いわば長期戦に備えて、心がまえをつくり直すようなイメージですね。

 そのとおりです。こういう状況下ですから、「世の中が元に戻るまでしのごう」という発想は、早めに捨てたほうがいいですね。むしろ、「いまの世界でも生きていけるように態勢を整える」という方向に切り替えるしかない。

 お子さんであれば、朝起きるのが遅くなってしまったり、ネットをやる時間が増えてしまっていたり、運動不足になっていたりするはずです。これまでは、学校が生活のペースメーカーになってくれていたわけですが、そういうリズムを家庭が自発的につくっていく必要がある。そのためには、毎日のスケジュールをつくって書き出すのがいいでしょうね。

 仕事が軸の生活をしていた大人も、リモートワークになったことで、リズムが崩れて困っている方が多いみたいです。これまでの延長線上で考えていると、なかなかうまくいきませんから、そういう方には「ちょっと早く定年退職したと思って、生活をゼロから作り直してみましょうよ」とアドバイスしています。

 早寝早起きもいいですし、読書したり、運動したり、何か新しいことをはじめるきっかけが訪れていると考えましょう。睡眠をしっかりとるとか、瞑想を習慣にするというのもいいですね。