SaaS型企業、freeeとマネーフォワードに見るIR戦略

朝倉:上場のスタートアップの場合も然りですが、比較的、投資家に対して先行投資の合理性が説明しやすいのがSaaSだと思います。

小林:SaaS型事業の健全性をはかる上で重要なのが、投下した資金が将来収益として返ってくる見込みが立つかどうか、という観点です。例えば、顧客あたりのLTV(顧客生涯価値)に対して、「顧客獲得単価はいくらなのか」というように、利益が出る構造なのかどうか、長期的な視点から見極めるのが基本的な考え方です。SaaSで示されるさまざまなKPIは、利益が出る構造が成立するかどうかを因数分解したものだと思います

先日、マネーフォワードが通期決算説明会でKPIについて詳細に明示した資料を提示しました。長期的に自社が投資した資金がどのように利益となって積み上がっていくかを投資家にわかるように説明していく姿勢だと見受けられます。

株式会社マネーフォワード「2019年11月期通期決算説明資料」より
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朝倉:同社が2020年1月14日に公開した2019年11月期の通期決算説明資料を見ると、経営指標として課金顧客あたりの売上高や、解約率、売上継続率、セールス効率性など、SaaSスタートアップを評価するときの基本的な指標を一通り提示しています。

村上:素晴しい取り組みだと思います。同様に国内のSaaS事業の開示レベルを上げた事例としては、freeeも挙げられるでしょう。同社が、2019年12月上場時、グローバル・オファリングを行なった際に提示した「成長可能性に関する説明資料」では、グローバルな投資家から説明を求められる観点を意識して、KPIが明示されていました。

freee株式会社「成長可能性に関する説明資料」より
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朝倉:同資料では、「魅力的なサブスクリプションモデル」として、月次平均解約率が2%未満であることや、ネットレベニューリテンションレートが100%以上であることが明示されていますね。