この探究の末に咲いた《ナンバー1A》という「表現の花」は、それまでに咲いたどの花とも根本的に異なる輝きを放つものでした。
20世紀のアートの歴史は、カメラが登場したことによって浮き彫りになった、「アートにしかできないことはなにか」という問いからはじまりました。
そこから、マティスは「目に映るとおりに描くこと」、ピカソは「遠近法によるリアルさの表現」、カンディンスキーは「具象物を描くこと」、デュシャンは「アート=視覚芸術」といった固定観念からアートを解き放ってきました。
そしてついにポロックは、《ナンバー1A》によって、アートを「なんらかのイメージを映し出すためのもの」という役割から解放しました。これによって絵画は、「ただの物質」でいることを許されたのです。
そうした意味では、ポロックは「絵を描いた」というより、絵の具やキャンバスという物質を使って、「絵をつくった」と表現したほうが正確かもしれません。
ポロックの「自分なりの答え」は、まさに「アートにしかできないことはなにか」という問いに対する究極の答えとなったのです。
末永幸歩(すえなが・ゆきほ)
美術教師/東京学芸大学個人研究員/アーティスト
東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。
東京学芸大学個人研究員として美術教育の研究に励む一方、中学・高校の美術教師として教壇に立つ。「絵を描く」「ものをつくる」「美術史の知識を得る」といった知識・技術偏重型の美術教育に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方を広げる」ことに力点を置いたユニークな授業を、都内公立中学校および東京学芸大学附属国際中等教育学校で展開してきた。生徒たちからは「美術がこんなに楽しかったなんて!」「物事を考えるための基本がわかる授業」と大きな反響を得ている。
彫金家の曾祖父、七宝焼・彫金家の祖母、イラストレーターの父というアーティスト家系に育ち、幼少期からアートに親しむ。自らもアーティスト活動を行うとともに、内発的な興味・好奇心・疑問から創造的な活動を育む子ども向けのアートワークショップ「ひろば100」も企画・開催している。著書に『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』がある。