種明かしをすると、じつはあの絵は、私が2歳のときに描いた絵です。もちろん当時はまだ物心がついてもいませんから、会話の内容は母から教えてもらいました。

では、なぜ私はなにも答えなかったのでしょうか?
年齢のせいでうまく説明できなかったから?
母とのやりとりに途中で飽きてしまったから?

何も覚えてはいませんが、そうではないように私は思うのです。
小さな子どもは私たち大人とはまったく違った「ものの見方」をしています。絵のとらえ方が私たちとずいぶん違っていても、おかしくありません。

この絵をよく観察してみてください。

「これ、何の絵を描いたの?」つい子どもに聞いてしまう親の“盲点”

弧状の線を見てみると、左端が右端よりも少し濃くなっているのがわかります。左端に力がかかっていることから、この線は「左から右」に向かって描かれたと推測できます。

試しに手を動かしてみるとわかりますが、私のように右利きの人は「左から右」に手を動かしたほうが逆向きよりも描きやすいはずです。

実際の絵では、弧の幅は25センチぐらい。これは、小さな子どもの腕がちょうど無理なく届く範囲です。線の途中は色が薄くなっていますから、その部分はクレヨンをさらっと滑らせるようにして描いたと考えられます。

続いて、「コロッケ?」と母が聞いていた茶色い部分。

先ほどの弧が右に傾いていることから、私が座っていた位置は絵の真正面ではなく、少し左だったと推測できます。つまり、茶色い部分は身体のいちばん近くに位置していたはずです。
これも手の動きを想像してみてほしいのですが、腕を伸ばして弧を描くときとは違い、自分の身体の近くは、力を込めてクレヨンをこすりつけることができたのではないでしょうか。