誤算の一つ目は、日本製鉄の業績悪化だ。ここから歯車が狂い始めた。
日鉄は2月7日、20年3月期決算が4400億円の最終赤字になる見通しを明らかにした。米中貿易摩擦などが影響して鉄需要が減少。子会社の日鉄日新製鋼の呉製鉄所(広島県)の全部休止や和歌山製鉄所の第1高炉の休止など、生産能力の大幅削減に踏み切った。
これにより、「すでに相談役なので直接経営に携わっているわけではないが、日本製鉄は大赤字を出した企業というイメージが付く。会長就任を要請しても宗岡さんが受諾しにくい情勢になった」と東電に詳しいあるエネルギー業界関係者は分析する。
とはいえ、宗岡氏のキャリアは十分で、次期会長にふさわしい人材に変わりはなかった。しかし、もう一つの誤算があった。新型コロナウイルスの感染拡大である。「新型コロナで積極的に宗岡さんにアプローチしにくくなった」と別の東電関係者は言う。
3月頭に、ダイヤモンド編集部が宗岡氏に直接問うところ、同氏は「正式の打診なんて受けていない。誰かが勝手に言っているだけ。私は電力業界に明るいわけではないし、他にふさわしい人材はいる」と完全否定した。
前出の関係者によれば、宗岡氏へのアプローチは、かつて経産省製造産業局鉄鋼課長を務め、宗岡氏とパイプがある安藤久佳・経済産業事務次官や、宗岡氏と親交が深い原田義昭・前環境大臣らが担っていたという。しかし、成就しなかった。
このまま、会長不在が続くのか。実は掟破りとなる候補者が一人いる。