ウルトラCは究極の掟破り
元経産次官の嶋田氏の会長就任
「ウルトラC」となる掟破りの会長候補者とは、前経産次官の嶋田隆氏である。宗岡氏や三菱ケミカルの小林会長など、財界の重鎮が口を揃えて「東電の会長なら嶋田が適任だ」と推薦する人物だ。
嶋田氏は旧民主党政権下で11年に設立された原子力損害賠償支援機構(現・原子力損害賠償・廃炉等支援機構)の理事兼運営委員会事務局長を経て、12年6月から15年6月まで東電取締役執行役を務めた。社内の守旧派を切り崩し、東電改革を推し進めてきた急進派の人物だ。
ただし、経産省は原則としてOBが利害関係のある企業への天下りを禁じている。震災前は、東電の副社長が経産省OBの「指定席」になっていて、これが東電と経産省の“癒着”と批判を浴びたからだ。この掟を破ってまで、嶋田氏が東電HDの会長就任の要請を受諾するのかが焦点である。
東電HDの経営は一見すると、堅調ともいえる。14年3月期から6期連続で最終黒字を確保。20年3月期は、福島第一原発の廃炉作業関連で特別損失を計上しつつも790億円の最終黒字になる見通しだ。
しかし、東電HDを巡る課題は山積していて、悠長でいられる状況ではない。
福島第一原発の廃炉費用を捻出するための収益改善の柱と位置付ける新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働は、目処が立っていない。原子力規制委員会の安全審査をクリアしたものの、立地自治体である新潟県などの地元同意については見通せないからだ。
また16年に始まった電力小売り全面自由化によって、顧客を奪い続けられていて、本業である小売り事業については販売電力量の減少に歯止めが立っていない。
そして東電HDの最大のミッションは、福島第一原発の廃炉、被災者への賠償など「福島への責任」を果たすことだ。その前面に立つべき会長職が不在という異常事態は、地元から「福島軽視」と言われかねない。