日本の新型コロナウイルス問題は、感染のピークを越えたように見える。だが、韓国やシンガポールのような感染第2波はいつ到来してもおかしくない。緊張感が解けない中、医療機関は辛うじて持ちこたえているように見えるが、医療現場は感染者を受け入れる病院だけではない。在宅医療を支える訪問看護の現場では、看護師たちがまるで竹やりで戦闘機に挑むかのような装備のまま、今日も不安に満ちた日々を送っている。最も感染リスクの高い医療従事者たちの自己防衛やオーバーワークは決して“美談”などではない。(ジャーナリスト 藤田和恵)
100均の雨がっぱと眼鏡で
発熱患者をケアする不安
医療用ガウンは100円ショップの雨がっぱで代用。ゴーグルも同じく100均で調達した花粉症用の眼鏡を使う。防護エプロンは45リットルのゴミ袋から手作り。フェースシールドもラミネートフィルムと手術用帽子を使ってそれらしきものを作る――。
まるで竹やりで戦闘機に挑むかのような装備について、大阪市内の訪問看護師の男性Aさんは(30代)は「訪問看護の現場は病院以上に深刻な医療物資不足です。こんな半端な装備で本当に感染が防げるのか……」と不安を訴える。
Aさんは3月に開設されたばかりの訪問看護ステーションの管理者だ。スタッフは5人。開設早々、新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われ、発熱といえばコロナ感染を疑わなければならなくなった。熱があると言う利用者にはできるだけ電話やビデオ通話で対応することにしたが、万が一、訪問しなければならない場合はAさんが一手に引き受けると決めた。職場でのクラスター発生や利用者への感染拡大の可能性を少しでも抑えるためだ。
Aさんは「正直、こんな心もとない装備で、ほかのスタッフに行ってくれとは頼めないというのもあります」と打ち明ける。
Aさんが最近、発熱した利用者の自宅を訪れたのは5月初め。移動中にデイサービスのケアマネジャーから携帯に連絡があった。訪問看護ステーションの利用者で、デイサービスを訪れている80代の女性に38度の熱があり、これから自宅に帰ってもらうので対応を頼むという。
たしか女性の夫も医療機関に通院していたはず。夫婦ともに不特定多数の人々が出入りする場所に行っていることを考えると、コロナ感染の疑いは大いにあった。2人とも高齢なので電話やLINEによる遠隔での指示は難しい。指示を仰いだ医師からも自宅まで行って採血をしてきてほしいと言われた。覚悟を決めるしかない。
まず、事前に夫婦に電話をして室内の換気をしてもらうよう頼む。自宅前に着くと、かばんからA4判サイズの透明なラミネートフィルムを取り出し、手術用帽子に両面テープで張り付ける。即席フェースシールドの完成だ。医療用マスク、花粉症用の眼鏡、雨がっぱを身に付けて室内へ――。