現在、パンデミックの下では、医療提供体制の強化をはじめとする感染症対策に加えて、コロナ恐慌によって大きな打撃を受けた企業や国民を救済すべく、大規模な経済対策がとられている(筆者はまったく不十分だと思っているが)。この大規模な経済対策は、当然にして、巨額の財政赤字の拡大を伴う。
これまで、我が国の政府累積債務は、過去20年以上にわたって増大し続けてきた。政府は、財政健全化を目指し、歳出抑制や消費増税を繰り返してきた。多くの経済学者やマスメディアは、日本の財政は危機的状況であると煽り続けてきた。
その中には、いつまでに日本が財政破綻するかを具体的に予言した者までいる(もちろん、外れたが)。日本は財政危機ではなく、むしろ財政赤字を拡大すべきだと論じていたのは、筆者(https://diamond.jp/articles/-/230685)を含めて、ごく少数に過ぎなかった。
にもかかわらず、パンデミックが起きている中で、財政危機を理由に経済対策を惜しむような声は、これまでのところ、表立っては少ない。それどころか、これまで財政危機を煽り、保健所や病院・病床数の削減を進めてきた政治家や経済学者たちまでもが、今では、日本の医療提供体制の不十分さを批判している。
しかし、財政健全化論者たちは、パンデミックを目の当たりにして、自説の誤りを認めたわけではない。このコロナ恐慌下で、「財政危機だから経済対策はできない」などと言ったら袋叩きにあうから、もっと丁寧に言えば「ポリティカル・コレクトネス」に反するから、一時的に口を噤んでいるというに過ぎない。
したがって、パンデミックが収束し、巨額の政府累積債務が残されたら、主流派である財政健全化論者たちは、再び「このままでは日本は、財政破綻する」と騒ぎだし、緊縮財政へと邁進するであろう。
こうして、日本経済がコロナ恐慌の後遺症から、いまだ十分に回復していない状況下で、財政支出の削減や増税が容赦なく実行に移される。その結果として、我が国は、再び深刻な不況へと陥る。これが、パンデミック収束後に引き起こされる「恐慌第二波」だ。
「恐慌第二波」とは、いわば、緊縮財政という誤った経済政策が引き起こす人災なのだ。
日本で20年以上続けられてきた「愚行」を繰り返してはならない
この「恐慌第二波」を回避するためには、段階的かつ慎重な「出口戦略」が必要になる。「パンデミック第二波」を回避するための「出口戦略」と同じである。
具体的に言えば、パンデミックが収束しても、経済が完全に正常化するまでは、経済対策の手を緩めてはならない。
そして、経済対策を終了する「出口戦略」には、具体的な基準を設けるべきである。例えば、「インフレ率2%以上であることを、五年連続して達成する」といった基準が考えられる。そして、この基準を達成した後も、再び基準を下回ったならば、経済対策を再開する。基準には、インフレ率以外にも、失業率や賃金上昇率なども考えられよう。重要なのは、国民経済の状況を基準とすべきであることだ。くれぐれも、財政赤字の規模を基準にしてはならない。
実は、スペイン風邪の「パンデミック第二波」と同様、「恐慌第二波」にも、歴史上の前例がある。それは、ほかならぬ1930年代の世界恐慌である。