世界恐慌下の1933年に成立したフランクリン・ルーズヴェルト政権は、従前の健全財政路線から決別して財政支出を拡大する「ニュー・ディール政策」によって、1935年までに失業率を低下させた。

 もっとも、当時、ルーズヴェルトを含む政権の首脳たちが皆、財政赤字の意義を理解していたわけではなかった。

 このため、ルーズヴェルト政権は、1935年までの景気回復に安堵する一方で、拡大した財政赤字に恐れをなし、1936年からは財政支出を削減させた。その結果、1937年から38年にかけて、史上最悪の景気後退が引き起こされ、失業率は再び跳ね上がってしまったのである。
 
 つまり、米国における世界恐慌には、「第一波」と「第二波」があったのである。

 残念ながら、我が国は、これと同様の経験を繰り返してきた。
 90年代初頭、バブル崩壊により不況に陥った我が国は、1995年までは公共投資を拡大することにより、デフレ化をかろうじて食い止めていた。ところが、政府債務が累積したため、1996年に成立した橋本龍太郎政権は、財政構造改革を掲げて政府支出を抑制し、1997年には消費税率を5%へと引き上げた。その結果、我が国は深刻なデフレ不況へと陥ったのである。まさに平成不況の「第二波」である。

 また、2008-9年の世界金融危機時には、麻生太郎政権の下で巨額の財政出動が行われた。ところが、その後に成立した鳩山由紀夫政権は、前政権の財政赤字を批判して歳出抑制へと舵を切り、景気回復を頓挫させた

 さらに、2011年の東日本大震災では、復興による財政赤字の拡大を恐れて「復興増税」を行い、翌年には消費増税法を成立させた。

 そして2012年に成立した安倍晋三政権は、当初は財政支出を拡大させ、デフレ脱却への道筋をつけたが、それも2014年の消費税率の引き上げによって挫折し、2019年10月の更なる増税によって、同年10-12月期はマイナス成長へと転落した。

 経済危機(第一波)が起きると、経済対策によって財政赤字が拡大する。その後、拡大した財政赤字を削減しようとして、新たな経済危機(第二波)が引き起こされる。平成の長期不況とは、この「第一波」と「第二波」を延々と繰り返す愚行の結果と言っても過言ではない

 そして、現下のコロナ恐慌においても、政府が設置した「基本的対処方針等諮問委員会」には、これまで財政健全化を唱え続け、消費増税に賛成し、東日本大震災時には復興増税を提案した経済学者が含まれているhttp://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/simon/kousei.pdf)。

 これを見る限り、残念ながら、「恐慌第二波」が襲来する可能性は、高いとみるべきであろう。

中野剛志(なかの・たけし)
1971年神奈川県生まれ。評論家。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』『世界を戦争に導くグローバリズム』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『国力論』(以文社)、『国力とは何か』(講談社現代新書)、『保守とは何だろうか』(NHK出版新書)、『官僚の反逆』(幻冬社新書)、『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室【基礎知識編】』『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』(KKベストセラーズ)など。『MMT 現代貨幣理論入門』(東洋経済新報社)に序文を寄せた。最新刊は『日本経済学新論』(ちくま新書)。